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第97回 2009/12/01
タシギ

タシギ

タシギ

(95)タシギ 「チドリ目シギ科タシギ属」
    英 名:Common Snipe
    学 名: Gallinago gallinago

    漢字名:田鴫、田鷸
    大きさ:27 cm




冬になると、越冬にわが国の平野部にやって来る嘴が長く大きめのシギ、タシギをご紹介します。このタシギの生息圏は広く、繁殖期にはユーラシア大陸北部、北アメリカ大陸北部、越冬期には日本を含む東南アジア、中近東、アフリカそして北アメリカ大陸南部から南アメリカ大陸に及びます。南極や豪州圏を除く全ての大陸に生息が及んでいるのです。

関東地方で秋や春先に見かけられる個体群は、恐らく最終越冬地へ向かう途中か、繁殖地へと向かう途上で、その意味では「旅鳥」ですが、真冬に見かる個体群は越冬中と思われ、「冬鳥」でもあります。私の住むさいたま市内でも、田圃や貯水池でよく見かけます。今年の新春には、香港の米埔(マイポ)自然保護区でも番と思われるタシギを見掛け、こんなに南でも越冬しているのかと、ちょっと感激しました。

雌雄同色といわれています。頭の中央部にクリーム色をした線(頭央線)があり、その両脇の黒い線(頭側線)とコントラストとなって、とても目立ちます。下の写真でご確認下さい。

タシギ、上から見たところ

タシギ、上から見たところ

名前の通り、稲刈りが終わった田圃の湿った部分に降り立ち、泥の中の昆虫やミミズを探して、長い嘴を泥の中にほぼ垂直につきたててせわしなく頭を上下させながら採餌します(よく似たチュウジシギは、ほとんど水の中に立ち入ることなく、田圃でも畦道などの乾いた地面でよく採餌します)。拡大写真を良く見ますと、大変複雑な模様を羽に纏っていますが、実際のフィールドではこの薄い茶褐色と濃い茶褐色の混じった体が、周囲の枯れ草や稲の切り株の茶色、地面の色に溶け込み、見事な保護色となり、簡単には見つけることが出来ません。すぐ側まで気付かずに歩み寄ってしまい、足元から急に飛び立たれた経験も一度や二度ではありません。冒頭に、このタシギの大きさ27cmと記載しましたが、通常の採餌活動時には首を伸ばしていませんのでもっとかなり小さく見えます。下は首を伸ばした状態の写真です。かなり大きく見えるのではないでしょうか。

タシギ、首を伸ばす

首を伸ばしたタシギ

図鑑の説明では、夕方から夜間にかけて活動するとされますが、その頃にはなかなか見ることが出来ていませんが、これまでの経験ではいつも日中、普通に観察できておりますので、ゴイサギなどと同じく、半夜行性といえるのではないでしょうか。

ちょっと奇異に感じられますが、今現在狩猟対象鳥です。ただ、タシギは、人家に程近い田圃や、河川敷、沼の浅い縁で休息したり、採餌したりしていますので、そこで狩猟行為をすることは実際上不可能です。英語でSnipe(スナイプ)と呼ばれますが、この語の古い意味では狩猟するという意味があり、狩猟対象としたのは欧州の方でもあったようです。

生息域が全世界に及ぶことは申し上げましたが、国内の観察例では、湿った田圃や池、川沿いなどの淡水域だけでなく、河口などの汽水域と、活動域も平野部にかなり幅広いといえます。山間部での観測例を仄聞していませんので、この点は、このシギの識別の一つのポイントとなるように思われます(一回り大きいが良く似たオオジシギは、夏場、高原などの高山帯でもよく観察されます)。

タシギは秋の季語です。「俳句の鳥」(創元社)には、「日本のシギ科の鳥40数種類の中で『鴫』と詠まれるのはタシギのこと」と説明されていますが、必ずしもそうではないのではと、若干疑問を持っています。これは恐らくタシギを詠んだものと思われる句を探してみました。 

 かさと来てかさと去りたる田鴫かな     武井 秀恵
 刈跡や早稲かたがたの鴫の声        芭蕉
 泥亀の鴫に這(はひ)よる夕哉       基角
 鴫立ちて秋点ひききながめ哉        蕪村

せわしげに活動することの多いタシギですが、どうかしたはずみか、じっと佇み長い嘴を下に向けたままの状態になることがあります。その姿が、経文をとなえているようだとして「鴫の看経(かんぎん、若しくはかんきん)」という言葉が生まれたとも伝えられています。動と静の激しい動きを見せるタシギ、お近くの稲刈り後の田圃の湿った箇所を探して見てください。

 





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