かなりの大都会でも、ちょっとした公園に行けばどこでも見かける野鳥にセキレイ(ハクセキレイ、セグロセキレイ)がいます。今回は、その仲間、季節によって山と平野を行き来する「ビンズイ」をご紹介しましょう。できれば、丁度一年前のこの「野鳥記」第84回でご紹介した、ビンズイに実に良く似た「タヒバリ」を事前にご一読いただければよりこれからの説明がお分かりやすいかと思います。
http://www.cec-web.co.jp/column/bird/bird84.html
セキレイの仲間だけあって、歩き回る時、実によく長い尾を上下に振ります。繁殖期は比較的高い山間部に生息します。これまで、夏、富士山の樹林帯や、奥日光の林の中で高い木の上で盛んに囀っているビンズイを見かけたことが何度かあります。囀りは複雑で、カタカナ表記が簡単には出来ないほどです。この習性から、キヒバリとも呼ばれるようです。そして、秋ともなりますと平野部に降りてきて林の縁などで越冬します。ただ、北海道地区で繁殖する群れは、東北地方以南へと移動するようです。
冬の時期、平野部で越冬するビンズイは、よく地面に降り立って小さい群れで採餌します。その際、これまでの観察では、松林を好む傾向があるようです。私は、田圃や畑で見かけたことはなく、いつも林の中や、その縁辺で見かけております。海岸や、田圃で観察されることの多いタヒバリとは、越冬時生息地の条件が若干異なるようです。また、夏にはよく木に止まるビンズイが、冬には余り木に止まることなく、地面を早足で歩き回ることが多いのです。
英名で Olive-backedと名付けられていますように、背中は緑褐色(オリーブ色)をしています。タイトルの写真でお判りのように、頭部には黒褐色の細めの縦斑が複数入っています。その縦斑の中でも、眉線の上側、頭側線は太く特徴的です。眉線自体は、眼の先でいわゆるバフ色をしていますが、眼の上から後部にかけては白く明確です。眼の後方、眉線のわずか下の部分に丸い白斑があるのがビンズイの特徴で、よく似たタヒバリにはこの白斑がありません。下の写真でご確認下さい。眼を横切る過眼線は不明瞭で細く、あまり気付かれないほどです。
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さて和名のビンズイとは、なんともその由来の推測ができかねていたのですが、「鳥名の由来辞典」では、鳴き声から来たと説明しています。そこでは、日本野鳥の会の創設者、中西悟堂氏と、籾山篤太郎氏が「野鳥記」で表した、鳴き声を「ビンビンツイツイ」と聞きなしたことからきたという説を紹介しています。ビンズイの鳴き声が「ビンビンツイツイ」とはどうも聞こえないのですが、聞きなしとは、ホオジロの「一筆啓上仕り候」と同様で、思い込みを強めるしかなさそうです。鳴き声から鳥名を付ける代表的な例は、カッコウですが、これは万人が納得するところでしょう。ビンズイの名前は既に江戸時代に定まっていたようです。中西説以外の由来説があれば、いずれご紹介したいと思います。中西悟堂氏の歌です。
びんずいが栂の枯木にゐて歌う ビンビンツイツイの歌はいつまでつづく
「ビンズイ」は夏の季語です。ヒバリの声を細く、清々しくしたようなビンズイ(便追)の囀りを思い浮かべながら、次の俳句をお読み下さい。
便追や羽黒の朝のきつね雨 皆川 盤水
便追や川の流れに夜の色 伊藤 淳子
鳴きとめしびんずいそこに木陰冷ゆ 田中 灯京
これからの冬、平野部で明るい松林に出かける機会があれば、木の根元のほうに数羽で足早に動き回っている明るい褐色系の小鳥がいないか、眼を凝らしてみてください。ビンズイが餌を探して地面をつついているかもしれません。または、夏の高山の林で、微妙な比較的長い囀りを耳にしたら、木の一番上から順に探してみてください。ビンズイの囀っている姿を眼にできるかもしれません。