カモメ科の野鳥が先月に続きます。今回は、カモメです。野鳥の中で、集合的に一般名詞としてよく使用される名前と種名が一致する種類はそう多くはありません。カラスやハトは、野鳥の分類として日常的に使用されますが、ある特定の種を示す学名上では、そのような名前の野鳥はいません。それに対して、ヒトの住む場所でもよく見かけることのできるスズメは、スズメ科スズメと分類されます。スズメは一般的な集合名詞でもあり、具体的なある特徴をもった種名でもあります。スズメ科のなかにはニュウナイスズメやイエスズメと呼ばれる種が別にいるわけです。今回は、カモメ科カモメ属のカモメをご紹介します。
カモメの仲間で日本の近海、沿岸でよく観察されるのは、ウミネコ、セグロカメメ、オオセグロカモメそしてユリカモメでしょう。それらに比較しますと、カモメは非常に個体数が少ないといえます。ただ前回ご紹介したミツユビカモメに比較すると、観察例はかなり日本沿岸の広範に及ぶといえます。私自身、関東地方の銚子港(千葉県)、波崎港(茨城県)それに三番瀬海浜公園(千葉県)で毎冬観察できているだけでなく、北海道は苫小牧港でも、また九州、福岡県の多々良川の河口付近でも見かけております。神奈川県ではカモメを県の鳥に指定しています。ただ神奈川県のサイトの資料として、県の鳥として掲載されている写真の鳥はどうもユリカモメに見えますので、種名としてのカモメではなく、普通名詞としてのカモメを指しているのかもしれません。他方で、カモメは英名ではCommon Gullとも付けられるほどですので、欧州や北米ではかなり普通に観察できる種なのです。
分布は、アフリカ大陸北部、ユーラシア大陸、北アメリカ大陸西部に及びます。北半球北部の海岸域では、北アメリカ大陸東部以外の全地域といえます。国内で冬見かけるカモメは、ユーラシア東部の高緯度地域から越冬に飛来しているものと思われます。国内では繁殖していません。大きさは、ユリカモメ(40㎝)よりは大きく、ウミネコ(47㎝)とほぼ同じか小さい(2段下の右側の写真で、ウミネコとの対比ができます)。中型カモメの仲間といえます。
嘴は決して長くはなくまた比較的細く、班のない個体が大部分です(上左と下左)が、上右の個体の用に黒い斑が環状に入る個体もいます。羽の色はウミネコとほぼ同じ濃さの青味を帯びた灰褐色です。ただ、光線の加減で、かなり色合いが異なって見えます、上の左右を比べ比べてみて下さい。
上左の飛行するカモメの羽をご覧ください。翼最先端は黒ですがその内側に白い部分が入ります。これはカモメの特徴の一つです。また尾羽は同じ写真からも明らかなように真っ白です。(ここまでのすべての撮影は、千葉県銚子港です。)
上右の写真(茨城県波崎港)の先頭はユリカモメ、口を開けあくびをしているのがカモメ、そしてその右側の4個体がウミネコです。大きさはご覧の通り、小さい順に左から並んでいます。また脚にご注目ください。ユリカモメは赤、カモメは淡色の黄色、ウミネコは明瞭な黄色です。こうして並んでみますとその違いがよく分かります。
上は、雪の降り積もったドイツ、ハンブルグでの2月の1カットです。一番左は先月ご紹介したミツユビカモメ、右2羽はカモメ、中央で羽を広げて飛翔しているのがユリカモメです。欧州北部では日本以上にカモメの生息数は多く、英名でCommon Gull=ナミカモメと命名されているのもよく理解できます。
カモメの俳句の季語は冬ですが、種としてのカモメを歌った俳句や短歌ではなく、カモメの仲間全体を指す、普通名詞として使われているものしか今のところ見つかっておりません。古く万葉集では、
国原は 煙立ち立つ 海原は 加万目(カマメ)立ち立つ 舒明天皇
ここでは、国家の平安の日々の象徴として、人々の生きている日常の生活が生み出す煙と対比して、広々とした海の上空を悠々と飛ぶカモメ(カマメはその古語)が歌われています。取り立てて外見上の際立った特徴がないといわれるカモメ科の一種、カモメですが、種の代表としては、その平易さがふさわしいのかもしれません。 これから冬に向かいます。海岸沿いに飛び交うカモメの仲間たちの中に、このカモメが何羽いるのか探してみませんか。嘴の形状、その色、肢の色、大きさ、かなり注意しないと分からないかもしれません。
注)写真は、画像上をクリックすると拡大できます。