代表的なカモメの仲間、セグロカモメをご紹介しましょう。だいぶ以前にとりあげましたオオセグロカモメに大きさも、色合いもよく似ています。ただ、オオセグロカモメが国内で繁殖する個体がいるのに対して、このセグロカモメは国内では繁殖せず、越冬に冬の間だけやってくる旅鳥、冬鳥です。その違いは、ごく大雑把にいいますと、オオセグロカモメの方が若干大きく、また背中の青灰色の色合いが、より濃い(黒っぽい)といえます。背中が薄い方がセグロカモメです。
国内で冬に観察できるカモメの中ではおそらく一番個体数が多いのではないでしょうか。次いで多いのがウミネコという順になりますでしょうか。背中を見せて飛翔するタイトル写真の個体は、東京湾の中に浮かぶ「海ほたる」で2月に撮影したものです。また、黄色い嘴の下側に赤い斑があることや、脚がピンク系であることはオオセグロカモメと共通です。この点は、中型カモメであるウミネコとの相違点で、ウミネコは黄色い嘴の先端は黒と赤の斑があり、脚は黄色です。冬日本で越冬するセグロカモメは、ロシアのチュコト半島からタイミナル半島にかけての地域で繁殖するといわれています。
大きく口を開けて鳴く、セグロカモメ成鳥 3月 千葉県銚子港 |
冬鳥セグロカモメは、日本全国の海岸、河口、港にやってきますが、中には河川伝いに内陸深くまでやって来て越冬する個体もいます。これまで、群馬県の多々良沼(館林市)や長野県の笛吹川(上田市)で見かけたこともあります。私が初めて意識的に確認したのは、さいたま市見沼田圃の芝川でした。いずれも冬で、成鳥でした。
カモメの観察で面白いことは、卵から孵り、親元から離れて巣立ちして以来どんどんと時間の経過とともにその色合いが変化していくことです。自身で餌を採れるようになった段階を「幼羽」、その後「第一回冬羽」、「第一回夏羽」、「第二回冬羽」、「第二回夏羽」、「第三回冬羽」そして「第四回冬羽」と変化していくのです。別の言葉で言いますと、カモメは成鳥になるのに4年間かかるともいえます。(それだけに寿命も長く、長寿な個体は30年を超える寿命を保つといわれています。)また、同じセグロカモメの中でも個体差もありますので、成鳥以前の各段階での識別はかなり経験が必要だと思われます。それゆえに、カモメの仲間については、バーダーでも比較的敬遠される方と、全くのめり込んでいく方に分かれるようです。
上は、幼羽のセグロカモメです。千葉県三番瀬海浜公園で9月に見かけました。その年に生まれて、巣立った後ただちに南下して辿りつけたのでしょう。幼羽では、嘴全体が黒いこと(ウミネコは嘴の先端だけが黒い)、また尾先が黒いこと(オオセグロは褐色)が挙げられます。
上は、第1回冬羽です。頭部が白くなり、他方尾羽が黒い状態で、同じ時期のオオセグロカモメは尾羽が幼羽同様褐色ですので見分けがつきます。いずれも、千葉県銚子港で3月に撮影したものです。
成鳥の背中にあるような、青味を帯びた羽根が生えてくるのは第2回冬羽以降です。下左側がそれで、背中に青味が出てきていますが、嘴はまだ黒い部分が多くその基部だけが薄く黄色味がでてきています。第3回冬羽ともなりますと、嘴が全体としては黄色く先端部だけが黒くなるのです。下右側はほぼ成鳥と同じような嘴のカラーバランス、全体としては黄色く、先端の下嘴だけに赤い斑が入っています。ただ羽を広げた状態で、内側に青味があり、風を切る側には黒い羽根がのこっています。この個体はおそらく第4回冬羽だと思われます。
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冬になると海岸ではよく見かけることのできるセグロカモメですが、食性は雑食性と説明されます。私がこれまで見かけたのは、カイ類、魚類、昆虫類などの動物性のものを食べる場面だけで(死骸も含めて)、海藻などの植物性のものを食べているところは観察できておりません。英名のHerring Gull のHerring とはニシンのことで、ヨーロッパでもニシンを食べているところが観察されてきたのでしょう。銚子港などで船が魚を満載して入港して来ると大声で騒ぎたてながら集まって来て、トラックの荷台に移した魚が道路にあふれて落ちるものを漁る様子を何回となく観察していますと、詩的な情緒を感じることはありませんでした。しかし、詩人、歌人からみると異なるようです。
情熱の歌人、島崎藤村は若菜集、「かもめ」でこう歌っています。波に生まれて波に死ぬ 情の海のかもめどり 恋の激波(おほなみ)たちさわぎ 夢むすぶべきひまもなしと。
また、与謝野晶子は舞姫で「かもめゐるわたつみ見ればいだかれて飛ぶ日をおもふさいはひ人よとも。
どこででも冬の海辺では見かけることのできるセグロカモメです。私ももう少し情緒的な観察眼で見直して見るとしましょう。
注)写真は、画像上をクリックすると拡大できます。