以前はペリカン目に分類されていましたが、2012年の日本鳥類目録第7版でカツオドリ目に分類し直されたウミウをご紹介します。英名で、Japanese Cormorantとされているのは、本種の生息が日本列島沿岸域に限定されているからだと思われます。北限は千島、樺太から、南は台湾まで、オホーツク、日本海、東シナ海と太平洋側は日本列島沿岸域に限定されている、その名前の通り、沿海域とその島々に住む海のウです。国内に生息するウの仲間は、他に、カワウ、ヒメウそしてチシマウガラスと合計4種類がいます。いずれも、魚を餌とする点では共通です。下は、波崎港でキスと思われる魚を飲み込むウミウです。また、右上のタイトル写真は、銚子港で見かけた比較的若いウミウです。
ウは、漢字表記で鵜とされますが、どうもこれは古く奈良時代からの誤った使用法が定着したもののようです。中国では古来より現在に至るまで、鵜(または、鵜鴣)はペリカンを意味し、ウには鸕に始まる別字を当てています。でもその間違いからしますと、鳥類目録6版までのウをペリカン目への分類は偶然だったのでしょうか。
鵜飼に用いられることで有名なウミウですが、姿かたちのよく似たカワウより一回り大きく(カワウは82㎝)、重くもあります。梅雨に入り盛夏へと向かう清流ではアユが活発に行動を開始するのに合わせて、観光用のアユ捕獲漁法、鵜飼が次々と開始されます。現在鵜飼漁が行われているのは全国で12の河川だといわれています。笛吹川(山梨県)、小瀬長良川(岐阜県)、長良川(岐阜県)、木曽川(岐阜・愛知県)、大堰川(京都市)、馬洗川(広島県)、錦帯橋(山口県)、筑後川(福岡県)、三隈川(大分県)、大洲肱川(愛媛県)、有田川(和歌山県)です。このすべての鵜飼漁法で使用されているのはウミウ、それも、茨城県日立市十王町、鵜の岬の「ウミウ捕獲場」で捕獲されたものが全国に供給されているといわれています(日立市のシンボル鳥はウミウです)。ただし、有田川だけは例外で、紀州海岸の岩礁地帯で鵜匠自らがウミウの捕獲にあたっているようです(ただ、中国広東省では鵜飼にカワウが用いられているといわれています)。この鵜飼は、古くは万葉の時代にすでに行われていたようで、万葉集には鵜飼が「鵜川たつ」として表現されています。
ウミウは、一か所にとどまる留鳥のカワウと異なり、夏の繁殖地と、繁殖を終えるとかなり遠くの南方まで越冬のために移動する渡り鳥です(ただ後に紹介する日本海側と太平洋岸の東北以北の島で繁殖するウミウは渡りをしないといわれています)。繁殖地は外洋に面した高い岩礁、断崖が選ばれます。ウミウの繁殖地として有名なのは、大須郷(秋田県にほか市)、栗島(天然記念物指定、新潟県)、照島(福島県)、壁島(天然記念物指定、山口県)などです。北は千島、北海道沿岸から南は山口県までとかなり繁殖地の緯度差があります。外洋に面した島々や断崖絶壁は、風の強さを別にすれば外敵を排除できますし、一日の気温差も内陸に比べるとかなり緩和されますので、かならずしも高緯度地帯だけを繁殖地とする必要がないのかもしれません。カワウが淡水域や汽水域の池や沼、内湾に面した樹木の上に営巣するのに対して、ウミウは同じように集団営巣しますが、直接地面の上に巣作りします。またウミウ、カワウともに集団行動する群れの鳥で、移動の際に飛翔型は同じ鍵の字を書くのですが、かなり高い場所を飛行するのがカワウで、海面近く低く飛翔する傾向にあるのがウミウです。
下左は、利根川の河口、波崎港(茨城県)で集団で越冬するウミウです。冬のさなか2月の撮影です。下右は、北海道・函館の志海苔海岸のテトラポットに集まったヒメウの中でただ1羽いた(一番左です)ウミウです(12月)。岩場やがけでの休息中に他のウとの競合、争いはこれまで見たことがありません。
←波崎港(茨城県) 志海苔海岸(北海道・函館)→
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下はウミウの越冬地として有名な神奈川県三浦半島の先端、城ケ島です。ここでもウミウだけでなくヒメウも一緒に越冬しています(但し、数は圧倒的にウミウが多い)。北原白秋がここで歌ったとされるものが、「ウミウ展望台」の案内板(三浦市作成)で紹介されています。
三崎城ケ島は鵜の鳥島よ 潮のしぶきで鵜が育つ
ウは夏の季語とされていますが、ウミウ、海鵜は冬の季語となっているようです。いかにも冬の海の荒れた厳しさを歌いあげるのに鵜がそのシーンの孤独感を強めているようです。
巌頭の 海鵜のほかは 怒涛かな 矢内 批杜詩
ヒトの生活圏に入り込み、順応したカワウは、生息数を一挙に増やしています。ある意味都市鳥と呼んでもよいのかもしれません。それに対して、ウミウはいかなる意味でもヒトの手の及ばない、自然のなかで毅然と生息する野性味にあふれています。断崖絶壁を繁殖地とするウミウは、孤高をたもって、毎冬の越冬数が減少しているとも伝えられます。何とかこれ減少することなく、少なくとも現状の生息数が維持できるよう、祈るしかありません。
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