国内に生息するウの仲間の中ではもっとも小さいので、ヒメ(姫)が形容詞として付けられています。また他のウミウやカワウと比較して嘴が細い点も特徴といえます。環境省のレッドブックでは、絶滅危惧ⅠB類(EN)に指定されている海鳥です。全国各地でその増加による人間社会への被害が問題視されているカワウとは全く違った様相を呈しているのがこのヒメウです。
世界的な分布は、北太平洋をはさんで、両大陸沿岸です。西側は日本列島から北上し、ユーラシア大陸北東部沿岸、ベーリング海へと至ります。また東側は、北アメリカ大陸北西岸から南下し、ババ・カリフォルニア南部にまで至ります。100%海水域でのみ生活します。
繁殖は、その規模の大小を問わず集団営巣地で行われるようです。北海道・天売島、青森県、そして九州北部の繁殖コロニーがよく知られています。繁殖期には、嘴基部は赤くなります。残念ながらその状態の撮影はできておりません。繁殖地付近では周年滞在するようですが、通常は北部で繁殖し、越冬期間に九州方面まで南下して越冬する旅鳥でもあります。関東地方では、房総半島から三浦半島にかけてかなりの越冬群を見ることができます。
本年8月、ナショナルジオグラフィック誌は、ヒメウの仲間、ズグロムナジロヒメウが餌の魚を捕獲するために、水深50mほどの海底に潜った様子を報じました。従来海面上か、海面のすぐ下の魚を捕えるだけだと考えられていた同種が、これほどの海底にまで潜ることができるとは新しい知見だと感銘のコメントを出したアルゼンチンの生物学会の研究発表の記事とともに掲載されたのです。ただ国内のインターネット上の情報では、それ以前にヒメウの潜水能力として40~50mはあるという推測も出ていましたので、国内の観察者にはあまり驚くべき記録ではなかったものと思われます。
ヒメウは採餌の場合は別として、休息したりする際にはよく群れています。上左は、北海道函館市の志海苔海岸のお気にあるテトラポットに集まった小さい個体です。この群れを見ているとき、通りがかりのおばあさんから、第二次世界戦争後函館に米軍が駐留した際に、このあたりのヒメウやウミウを米兵が面白半分に銃で狙撃し、しばらくヒメウが海岸沿いには寄りつかなかったことを話してくれました。
英名に付けられている、Pelagicとは遠洋を意味します。沿岸に対する言葉ですので、ヒメウが島嶼や沿岸の岩礁などに群れていながらも、餌の確保には沖合に出る習性を指しているものと思われます。
さてこのヒメウ、直射日光の下で見ますと緑色や赤紫色の金属光沢が部分的に浮かび上がります。上右の写真(千葉県銚子港)や、タイトルの写真(茨城県波崎港)でご確認できると思います。このような多彩な色合いが直射日光ででることは、カワウやウミウにはありません。ヒメウならではの特徴です。
上左側の写真は、ヒメウの若鳥(銚子港)です。褐色みを帯びていますが全身が黒いのが特徴です。光線の具合によって光沢のある緑色が出る成鳥と比べるといかにも地味です。
ところが、あるとき上右の個体を神奈川県江の島で見かけました。全身明るい茶色で、ところどころ濃い茶色になっています。このような個体の写真はどの図鑑にも掲載されておりません。嘴の形状は、この個体がヒメウであることを示しているように思われてなりません。雛鳥から若鳥に成長する過程ではないかと考えております。もし間違えた理解であれば、ご指摘いただけますようにお願いいたします。
季語としては夏といわれていますが、ヒメウを歌った俳句、短歌を探すことはできませんでした。なんとなく高貴な雰囲気もあるヒメウです。海辺の岩礁地帯で、この冬探してみませんか。
(注)写真は、画像上をクリックすると拡大できます。