カラスと名前の中にありますが、分類的にはまったくカラスとは独立した種を形成する野鳥です。基本的に渡りをしないといわれる留鳥です。からだが濃い褐色系の地味な羽毛でおおわれているところから、カラスの名前が借用されたのでしょう。また、カワと付けられているのは、本種が清流、渓流域に限定的に生息しているからです。専らトビケラ類、カゲロウ類、カワゲラ類などの水生昆虫を餌とするため、流域の中でも生息するのは岩石が多い場所に限られます。動物食性で、水生昆虫以外には、小魚や甲殻類なども餌とするようです。関東地方では、標高200メートル未満の清流から、たとえば1000メートルを超える日光中禅寺湖に流れ込む水系に至るまで広く観察することができます。全国的には、屋久島以北、北海道までに生息しているといわれています。
綺麗な水のかなり急な流れのある場所が、カワガラスの生息条件です。水深の浅い部分では、水底をしっかりと掴んで歩きながら餌を探します。下左の個体は、日光竜頭の滝のいちばん上の部分を歩きながら餌を探しているところです。水深の深い個所では、水面上を泳いだり、また水中に潜ったりしながら餌を探します。スズメ目の野鳥の中で、水の中を泳いで餌を採る野鳥はこのカワガラスだけです。単独、または番(つがい)単位で行動し、群れでいるところは見かけたことがありません。
下流から上流へと餌を探し、いったん最上流まで行きますとまた飛翔してあるポイントまで戻り、その動作を繰り返します。飛行は直線的で、飛び立っても眼で後を追跡するのは容易です。
カワガラスの繁殖期は2月から6月といわれています。他の野鳥に比べて繁殖活動の開始時期が早いのです。上右の写真は、日光竜頭の滝下で撮影したものですが、まだ雪が十分残っている2月に、巣材のミズゴケを運んでいるところです。かなり早いケースですと既に1月には子育てを始め、4月には2回目の繁殖に入ることもあるといわれています。カワガラスの餌が、水生昆虫であるため、他の野鳥より早く繁殖活動に入ることができるのでしょう。
一度の繁殖で4羽ほどの雛を育てるといわれていますが、残念ながら私は最大2羽の雛を育てているところまでしか観察できておりません。下左はかなり大きくなった雛、また下右は巣立ち直前の雛が親鳥から餌を受け取っているところです。親鳥はそののち雛の前に表れず、雛もあきらめて自分で餌を探すように移動を開始しました。巣立ち直前の雛は、親以上に丸々と太って見えます。親から与えられた餌で確保された体力が尽きる頃までには、自分で餌を確保しなければなりません。
カワガラスは留鳥で、一年中観察できますが、生息場所は季節によって変えています。雛を育てた場所に、雛が巣立った後も親鳥がそのままいることはないようです。川幅の比較的狭い個所と広い個所を、繁殖期と非繁殖期で住み分けているのかもしれません。
季語としては春といわれています。いかにも冷たい清流にいるカワガラスが目に浮かぶ二句です。
川鴉雪しろ水をふるひけり 吉田冬葉
河烏出てはまた入る雪解川 獏(行々子)
川鴉 なきすぎゆきぬ たぎつ瀬の たちき輝き流る上を 若山牧水
カワガラスは時としてピーピーと鳴きながら飛びますが、牧水はその様子をよく観察していたようです。地味な色彩の野鳥で、住んでいる場所も清流域ですからよく探さないと目にとまりません。岩の多い清流・渓流域に出かけられたら是非カワガラスを探してみてください。水面に沿って低く直線的に飛びます。
(注)写真は、画像上をクリックすると拡大できます。