山地で単独生活するツツドリは、日本では夏鳥です。山間部の繁殖地に入る前の春には、東南アジアで越冬した個体が短い間、都市公園などで羽を休めます(越冬地へ向かう秋にも同様です)。晩春から初夏にかけて、1000メートル級の山に入りますと、遥かかなたから、ポッポッ、ポッポッと抑揚の無い二声の鳴き声が聞こえてきます。それがツツドリです。この鳴き声から、ポンポンドリの異名もあります。
見沼田圃の旧浦和市と川口市の間を流れる芝川に流れ込む支流沿いの木々に、芝川沿いの調整池が現在進行中の工事に入る数年前までは、毛虫を採るツツドリの姿を例年春と秋、1週間から10日間ほどは容易に観察することができました。残念ながら目下長い工事中で、筒を打つ独特の声もここからは聞こえてこなくなってしまいました。
よく知られているように、カッコウ、ホトトギスと同様、ツツドリも托卵(他の野鳥の巣に卵を生み、その野鳥に育雛させる)によって子孫を継続させます。托卵については、この野鳥記、カッコウの項目をご参照下さい。ツツドリがもっぱら仮親に選ぶのは、センダイムシクイといわれています。http://www.cec-web.co.jp/column/bird/bird08.html
この3種類はシルエットがよく似ていますが、カッコウが一番大きく、ツツドリは中間で、ホトトギスが最小です。キジバトとほぼ同じ大きさがツツドリ(キジバトよりスマートには見えますが)、ヒヨドリとほぼ同じ大きさがホトトギスと覚えておけば、まずホトトギスは大きさだけで識別できます。鳴き声は、皆さんご存知のようにそれぞれ独特ですので、声さえ聞けば間違えることはありません。
托卵性の三種類ですが、いずれも白い腹部に横縞が入ります。カッコウはその横縞が細く間隔も狭まっていますし、その横縞も中央部で途切れていることが多いようです。それに対してツツドリは横線がより太く、間隔もあり、縞が腹部の中央で途切れることが無いように見受けられます。また、幼鳥では、頭部に白斑があるのがカッコウ、無いのがツツドリといえるようです。
この三種類のうちでは、ツツドリが最も春早く日本にやってきます。ツツドリは、春、越冬地から山裾にやってきて一時的に留まるときには、時としてその独特の声を聞かせてくれますが、同じ場所に秋戻ってくるときにはまず鳴くことはありません。見沼田圃では、ツツドリとオオヨシキリがほぼ同じ時期にやってきます。そして、ツバメが渡ってきて、その後カッコウが鳴き始めるころにはツツドリは山の繁殖地に飛び立っているのが春から初夏にかけての鳥たちの移動の流れでした。
ツツドリを歌った短歌です。
これも又さすがにものぞあはれなるかた山かげのつつとりの声 寂蓮
山うらの一つところより聞こえくる筒鳥のこゑは呼ばふに似たり 島木赤彦
また、俳句では夏の季語。木陰にいて人目に触れることが少ないせいでしょう。やはり、短歌同様、その鳴き声がよまれます。
筒鳥のはるかにこゑすまたはろか 岸川 稚魚
つつどりにきつと二こゑづつの喉 齋藤 美規
筒鳥の鳴いて一気に草匂ふ 水木 汀
筒鳥の盛んに鳴いて祖父の家 安藤 ちさと
都市公園では、桜の木などについた毛虫を採る様子がよく観察されます。下の写真をご参照下さい。繁殖地の山奥では、木の高い場所にとまるせいでしょうかなかなか見かけえることが困難です。1,000m程度の夏山で、遠くに「ポッポッ、ポッポッ」という声が聞こえないか、耳を澄ませてみてください。それがツツドリです。
毛虫をくわえたツツドリ |