国内で観察できるタカの中では、最も小さいツミです。1980年代半ば以降、都市部での繁殖が多く観察されるようになってきています。一時個体数が増大傾向を見せたものの、近年その傾向に鈍化が見られるという観察報告も目にしたことがあります。少なくとも、都市化に順応できつつあるタカということはできそうです。比較的高い樹木の冠部に営巣しますので、都市部でも、ある程度の広さを持った林のある公園、神社、仏閣などが繁殖場所として使用されています。
漢字で雀鷹と書かれ、英名でSparrowhawk とされるツミですが、スズメを良く捕らえ餌とするという説と、スズメのように小さいからという二説があるようです。スズメはススミと読まれ、ススミタカが略されてスミとされ、更にそれが転化してツミとなったという説が有力なように思われます。
とやかへる つみを手にすゑあはづ野の うづらからむと この日くらしつ (注)
ツミがウズラ獲りに使われている様子がうかがえます。もっともここでいうツミは、大きなメスのことです。大きいといってもキジバトほどなのですが、遥かに大きいカラスにも猛然とはむかうことから鷹狩りにも適していたのかもしれません。他方、ヒヨドリほどの大きさしかないオスのツミは、この時代、「えっさい(悦哉)」と呼ばれ、平安時代に遡って別名で扱われていたようです。ツミほど雌雄で大きさとその容貌が異なるタカはいませんので、場合によっては別の種類と理解されていた可能性もあります。
タイトルの写真は、メスです。写真でもお分かりの通り、背中は褐色味が強く、下面は白で、褐色の横斑が明瞭に入ります。眼のアイリングは黄色で、虹彩も黄色です。これに対して下の写真のオスは、青味の強い頭部と背中をしており、下面は、淡い赤褐色で、不明瞭な横斑が入っています。また、眼のアイリングはメスと同様に黄色ですが、虹彩が暗赤色ですので、大変目立ちます。更に、大きさがほぼ一回りほど異なりますので、別種と間違われてきた可能性は十分あるように思われます。
ツミの雄 |
他方、下の写真は幼鳥で、巣立ってやっと自力で餌を採り始めたばかりのころです。背中は暗褐色、下面はいわゆるバフ色。胸には暗褐色の縦斑、脇腹には横斑、中心部にこの写真では分かりませんがハート型をした斑が入り、非常に多彩な斑の入り方をしています。また、アイリングは不明瞭で、虹彩は緑味がかった黄色をしています。
ツミの幼鳥 |
抱卵はメスが行い(約30日間)、雛が孵り、巣立つ直前まで、雌雄で育雛します。どうもオスは直接に雛に餌を与えることはなく、メスを経由して餌を与えている姿しか見たことがありません。雛が巣立つ頃にはオスはいなくなりますが、メスは、雛が巣立ち、自力で餌を取れるようになるまで側についています。これは、他の猛禽類でもよく見られる傾向です。
ツミが都市化してくるにつれ、ツミの営巣場所でオナガもまた営巣している姿が多く観察されています。カラスに対するオナガの自己防御のなせる業かと思われますが、この点は、本「野鳥記」の「オナガ」の項を参照下さい。
http://www.cec-web.co.jp/column/bird/bird99.html
国内では、夏鳥または留鳥(埼玉県では留鳥といってよいでしょう)。本州以北で繁殖、九州、四国、南西諸島で越冬もしくは、更なる南を目指して通過するといわれています。世界的にはモンゴル北部、ウスリー、中国東部、朝鮮半島、サハリンが繁殖地で、中国南部、東南アジアが越冬地といわれていますので、東部アジアのタカといえます。英名に Japanese がついているのもうなずけます。
俳句では、冬の季語。
天辺に聴く風音やつみ翔てり 村上 末廣
小さな身体に似合わず、力強く飛翔するツミを歌ったものだと思われます。
キーキツとよく鳴きながら林の中を飛び回ることも多いので、声を頼りに探すと意外と近くに発見できるかもしれません。東アジアだけにしかいない、小さな勇士を思わせるツミを探してみませんか。
(注):新撰和歌六帖(鎌倉時代)