鳴き声で有名なコマドリをご紹介しましょう。日本三銘鳥の一つに挙げられるほど有名ですが(他はウグイス、オオルリ)、残念ながら近年コマドリの鳴き声(囀り)を日常生活で聞くことのできる方はほとんどいないのではないでしょうか。越冬場所は中国南部だといわれています。そこから夏になると北上して、国内に繁殖のために飛来する夏鳥です。繁殖地が山深い渓流域であり、群れでの移動行動ではありません。春秋の山間部への、もしくはそこからの移動の途中、海岸部からそれほど離れていない都市型公園で運が良ければ単独の個体を観察できることもあります。ただ好む生息環境が、林の下草の生い茂った草叢や藪の中ですので、声はすれども姿は見えずといわれる、観察が楽ではない野鳥です。
鳴き声は体に反比例するかのように大きく、「ヒンカラカラカラ.....」と力強く鳴きます。これを馬の嘶(いなな)きの様だと聞きなして、馬=駒の鳴き声の鳥、かくしてコマドリの命名となったようです。ちっと文学的な名前の付け方です。(ただ別の見解として、その鳴き声が、馬が走る時の轡を鳴らす音に似ているところからというものもあるようです:「本朝食鑑」)学名は上記のように日本鳥類目録第7版によれば、Luscinia akahigeですが、ネット上の検索、図鑑ではErithacus akahigeと記されています。第7版でツグミ科がヒタキ科にあらためられたのに関連しているのでしょう。ただ種名がakahigeとされているのは学名登録時の単純な間違いで、アカヒゲが逆にkomadoriとされているのはちょっとお笑です。いつ登録されたのか分かりませんが、間違いが放置されて何十年も経過していることは間違いありません。いい加減に訂正したらどうなのでしょうかね。
タイトル写真の個体と、このページ一番下左の個体はともにオスのコマドリです。下の2つの画像はメスで、雌雄でかなり色彩に差があります。まず頭部の橙色がオスの方が明確、彩度が高い、つまり鮮やかです。そして青味がかった灰黒色の胸部と頭部の境目が、オスでは明確、メスでは不明確で、この胸部の色合い自体もメスが薄くなっています。
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コマドリは、英名ではJapanese Robinとされています。それは欧州にはれっきとしたコマドリ、Robinが生息しているからです。欧州に生息するコマドリの学名はErithacus rubecula。日本では「ヨーロッパコマドリ」と和名を付けられています。「コマドリ」が「Japanese Robin」とされたのと丁度逆さまになっています。
ヨーロッパコマドリは、欧州の都市部では普通に観察できる鳥です。下右側の写真をご覧ください。ドイツ、ハンブルグの住宅地で寒い2月に撮影したもので、留鳥として四季を通して観察できます。日本のコマドリが頭部全体が柿色なのに対して、ヨーロッパコマドリは頭頂部は灰色で顔から喉そして胸にかけてだけが柿色で、腹部は白です。私には日本のコマドリ方がメリハリがあって好ましいのですが、いかがでしょうか。
このヨーロッパコマドリは英国の国鳥と理解されている(政令的な根拠はありませんが)ほどに、欧州では人々になじみの深い野鳥です。多くの神話や逸話があり、キリスト教との関係も深い野鳥です。また、人名にもRobinはよく用いられますが、男女どちらにも使える名前として有名です。具体的な例として、男名として使われているのは、米国喜劇俳優の Robin Williams、かのイギリスの伝説上の義賊 Robin Hood, 漫画バットマンに登場するRobin少年。他方で女名として使われているのは、米国歌手Robin Rannyやフォレスト・ガンプ/一期一会で一躍有名になった女優 Robin Wrightなどです。残念ながら、日本では欧州ほどにコマドリにまつわる伝説や言い伝えは見当たりません。
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コマドリは夏の季語です。やはりその囀りを詠んだものが圧倒的に多いです。
駒鳥のこえころびけり 岩の上 斯波園女
この句などは直ぐ上の苔むした岩の上で囀っているコマドリを思い浮かべてしまいます。次の句は、声を表現しているわけではありませんが、崖を伝い落ちるしずくの背景にコマドリの囀りを思うと深みが増しそうです。
駒鳥や崖をしたたる露の色 加藤 楸邨
残念ながら、珍しい野鳥になってしまったコマドリですが、渓流の流れる、または木々の深い緑を映し出す深い山中の池や湖でコマドリの声を聞きに、今年の夏、山への旅を計画して見るのもおもしろいのではないでしょうか。
注)写真は、画像上をクリックすると拡大できます。