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ホーム/コラム/徒然野鳥記/第150回マガモ

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第150回 2014/5/01
マガモ
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マガモ

150)マガモ 「カモ目カモ科マガモ属」

    英 名:Mallard
    学 名:Anas platyhynchos
    漢字名:真鴨
    大きさ:59cm

 

 

代表的なカモの仲間、マガモです。国内に飛来するカモの仲間の中で最も数が多いのがこのマガモで、前回ご紹介した環境庁の調査でも、国内のカモの中でその23%がマガモであったという結果が報告されています。カモの4分の一がこのマガモというわけです。欧州、北米でもよく見かけることのできる本種は、国内だけでなく世界的にもカモの代表といえそうです。

他の多くのカモ同様、マガモは冬鳥として越冬に日本列島各地にやって来ます。ただ北海道では一部で繁殖が確認されているようです。関東地方では、奥日光戦場ヶ原で盛夏に数羽のマガモを何度か見かけたことがあります。恐らく繁殖活動をしているものと思われますが、まだ雛を連れた家族のマガモの確認には至っておりません。マガモ・オスの頭部は、下左の写真のように(千葉県市川市じゅんさい池)金属光沢を帯びた緑色ですが、光の角度によっては青味を帯びて見えます。嘴は全て黄色で、先端の嘴角部と鼻孔部だけが黒く、嘴全体の黄色の中で目立ちます。

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←繁殖羽♂

 

エクリプス→

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タイトル写真は、茨城県真岡市井頭公園で見かけた凍りついた池の上の雌雄のマガモです。ご覧のようにメスは褐色の地味な頭部で、黒褐色の過眼線が入ります。嘴はオスとは異なり橙色で、上部に黒い斑が不規則に入ります。雌雄の判別の困難な、換羽期(エクリプス状態)には、嘴を判断基準とすることができます。上右は、苫小牧市北大演習林で9月中旬に見かけた個体です。頭部の色からするとメスのように見えますが、嘴が綺麗な黄色です。換羽後のエクリプス状態(オス)なのです。マガモは、前回ご紹介したホシハジロとは異なり、雌雄で光彩の色が異なることはなく、双方とも褐色をしていますので、嘴の色で判断するのが良いと思われます。

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←♀

♂→

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上の2枚はいずれも羽ばたいているマガモの雌雄です。この写真から、翼鏡の色は雌雄を問わず綺麗な紫味の強い青色であることがよく分かります(左はさいたま市サクラソウ公園、右は栃木県戦場ヶ原湯川)。

マガモは古来ヒトとの付き合いの古いカモで、ヒトはこのマガモを飼いならして家禽化しアヒルを作りだしています。中国、欧州、西アジア、北米でそれぞれ独自に家禽化した歴史があるようで、一番古いのは中国で3,000年前、欧州では2,000年前、最新なのが北米で1800年の頃だといわれています。その肉の質が良いこと(つまり食べて美味しい)、1羽あたりの肉の量がかなりあることなどが注目され家禽化されたのでしょう。その後、羽毛の利用、卵の利用なども家禽としてのアヒルの需要を大きくしていったのでしょう。そして、このアヒルとマガモを人工的に交配したのがアイガモです。実際には白アヒル・メスとマガモ・オスの交配のケースが一番多いようです。蛇足ですが、アヒルより一回り大きいガチョウは、ガンを家禽化したものです。ペキンダッグとして有名な中華料理はアヒルを材料としてものですが、フランス料理で有名なフォアグラはガチョウ(の肝臓)を食材としたものです。

下左は、著者の住む埼玉県神川町の田圃で一昨年5月に見かけたシーンです。左側はいうまでもなくカルガモです。右側の、一見マガモ・オス風に見える個体は何でしょうか。カルガモより一まわり大きく、尾羽先端がカールしていますので間違いなくアヒルの流れをくんでいます。嘴基部から眼の上から後部にかけて薄く眉線が入っています。これはカルガモの特徴です。恐らくこの個体は、アオクビ系アヒルまたは、大型化したアイガモとカルガモの交配種ではないかと思われます。アヒルは飛翔能力を失ってしまいましたが、アイガモは十分飛翔能力をもっていますので、アイガモが広く稲作農業に使用されるにつけ、このような様々な遺伝子をもった雑種的なカモが発現することになっている(染色体汚染の拡大)のが現状です。

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カモの仲間の場合、上の様なケースとは別に、異種間であっても交配が起こることが見かけられます。上右のカモは一見キンクロハジロ・オスに見えますが、嘴の色、形状、頭部の形状がマガモです(ドイツハンブルグにて撮影)。おそらくキンクロハジロとマガモの交雑種(ハイブリッド)でしょう。種とはそれを超えては交配しないバリアーを持つ同じ生態的特徴を持つ群のことですが、どうもカモの仲間ではそのバリアーはさほど高くはないようです。

カモは、万葉の時代から良く歌に詠まれています。

葦辺ゆく 鴨の羽がひに霜降りて 寒き夕へは大和し思ほゆ 志貴皇子

カモの「羽かひ」とは両の翼の合わさった部分。そこに霜が降った(ように見える)寒い夕べとは何とも心寒い心情、そうしたこころの風景に大和への熱い思いが浮かび上がって来るのでしょう。

おきながら明かしつるかな共寝せぬ 鴨のうは毛の霜ならなくに  和泉式部

この時代の女流歌人は、はっきりと性愛をおおらかに歌いあげる自由とたくましさを秘めていたようです。俳句での鴨(カモ)は冬の季語です。

鴨遠く鍬洗ふ水のうねりかな  与謝蕪村

何とも寒そうな情景です。

春雨や喰はれ残りの鴨が鳴く  小林一茶

一茶の時代(江戸後期)、カモは貴重な食糧源であったのでしょう。まだ寒い雨、生き残った鴨の声は何を物語っているのでしょうか。一茶の句には一見単純そうで、その裏にあるものの深さを考えさせられます。

全くの普通種マガモですがヒトの生活に密着した存在であるだけに、観察すべきこと、学ぶべきことがまだたくさんありそうです。

 

 

注)写真は、画像上をクリックすると拡大できます。

 



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