冬の寒さが続く中、極北の代表的な野鳥、コクガンをご紹介しましょう。シベリア東部で繁殖し、国内にはほとんどが東北北部、北海道南部の各地域で越冬します。ただ時として関東地方やより南部でごく少数の個体が観察されます。右のタイトル写真のコクガンは、その少数の一羽で2011年11月に三番瀬海浜公園(千葉県船橋市)にやってきた個体です。この個体と同一だと思われる個体が、その前年(2010年)も、またその翌年(2012年)も観察されています。残念ながら、2013年暮れからのこの冬のシーズン、まだ観察はされていないようです。
コクガンは、マガン(70㎝)より一回りほど小型で61㎝ほど、カンの仲間の中では小型の種類です。カモでは比較的大型とされるカルガモと同じぐらいの大きさです。下左側の写真をよくご覧ください。上の方、左側に2羽、水中を泳いでいるのがカルガモです。ほぼ同じぐらいの大きさであることがお分かり頂けるでしょうか。マガンより絶滅危惧の度合いが高いとされ、絶滅機具Ⅱ類(VU)とされている天然記念物(1971年)です。他のガンの仲間同様、雌雄は同色で、頭部、頸、胸、背が黒いのでこの名前が付けらたと思われますが、頸に結構太いネックレス状の白い模様が入るのが特徴で、腹部は灰色、下尾筒は白です。
上は、北海道函館志海苔町地区で集団越冬するコクガンです。函館はもともとは島、そこに砂礫が伸びてできた陸繁島上の町だといわれ、その両側が津軽海峡。その東側の海岸を下海岸と呼び、その入り口、根崎付近の磯浜を志海苔(しのり)と呼ぶようです。コクガンの主要な餌は、アオサ、イワノリ、アマモなどの海藻類だといわれています。ここ志海苔は、名前の通り、岩礁に海苔状の海藻がよく生い茂り、それを餌としてコクガンがよく集まって越冬するようです。一説によると国内で越冬する大多数が、函館近海に集まるといわれています。
マガンは、カギ状に隊列を組んで飛翔しますが、コクガンは隊列を組むことなくバラバラに飛んでいくようです。上右は水面から飛び立った瞬間ですが、その後の動きは隊列を組むようなそぶりもありませんでした。鎌倉近辺の大磯の塩水を飲みに来るアオバトのようになんとなく一塊りになって飛ぶといった印象でした。ただアオバトほど密集して飛びませんでしたが。
国内で越冬するガンの仲間は、マガン、ヒシクイとこのコクガンの三種類が主なものです(他にもシジュウカラガン、カリガネ、ハクガン、サカツラガンなどがいますが、圧倒的に少数です)。現在では、マガンの主な越冬地が宮城県伊豆沼地区、ヒシクイ(オオヒシクイ)が千葉県、茨城県の霞ヶ浦地区、そしてこのコクガンが北海道函館地区とすっかり限定されてしまっています。しかし、ごく少数が今でも、中国四国そして時には九州でも観察され、日本各地に残された地名に雁の名が含まれているものが多い(大分県中津市の雁股峠、愛知県雁峯山など)ことを考えますと、間違いなくガンは秋から翌年の春までのかつての日本においては、ほぼ全国的に人々の生活に密着した、親しまれる存在であったに違いありません。
海藻の生える海岸は、残念ながら次第に埋立てられたり、海岸線のコンクリートやそのブロックによる護岸工事により次第に面積を狭めています。他方で、繁殖地の極北地帯は温暖化の影響で天敵動物の侵攻に晒される一方、トナカイの家畜化によりこれまた従来の環境を維持できなくなっているといわれています。昨年暮れから、今年にかけて、国内で越冬する冬鳥の数が非常に少ないことが報告されてきています。北極圏で繁殖する野鳥たちの生息が危惧される状況に陥りつつある証左ではないかと心配されます。野鳥の保護には、もはや一地域、一地方、一国で環境の保全を尽力するだけでなく、世界的な広がりで考え、実行する以外に抜本的な対策にはならない、そのような状況に立ち至っていることは間違いなさそうです。
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