先月まで、海辺の野鳥が続きましたので、秋の深まった今月は山の野鳥をご紹介いたします。取り立てて目立つ色彩を帯びていない、ヒタキの仲間の中でも地味なコサメビタキです。 ヒタキと付く野鳥(例えば、キビタキやこのコサメビタキ)は、従来はヒタキ科とツグミ科に分かれて分類されていました。しかし、2011年の日本鳥類目録第7版にて、すべてヒタキ科に統一されています。
コサメビタキは、スズメよりも小さい13㎝ほどの小柄な、森というより林の野鳥です。インド、マレー半島、フィリピン、中国南部やボルネオで越冬、日本列島、カラフト、中国東北部で繁殖活動をします。繁殖は山間部です。そこへ行く途中の春先や、繁殖を終えて越冬地へと向かう途中に、都市部の公園の休息をとり海を渡って行きます。ですから、都市部に住んでいるバーダーにとっても、さほど遠出することなく非繁殖期には観察できる野鳥でもあります。私の場合ですと、春秋には以前住んでおりましたさいたま市内の秋ヶ瀬公園や氷川神社の境内で毎年観察できました。また、繁殖期には長野県戸隠森林植物公園で、若葉茂る森の中で見かけることもできました(下右の画像.この個体は囀っていますのでオスでしょう。縄張りを主張しているのでしょうか、メスを魅了しようとしているのでしょうか。6月下旬の撮影です)。また、香港の新界地、沙田(サーティン)の公園で、越冬中の個体にも遭遇できております。一番下、右側の画像がそれです。こうして、幸運にも、渡りの途中の中継地、繁殖地、越冬地の3ポイント全てで観察できている数少ない野鳥でもあるのです。
英語名に Flycatcherとあります。これは、コサメビタキが枝先にとまり空中を飛び交う昆虫を空中に飛び立ち捕えて、また元の枝先に戻って来る様子を指したものでしょう。空中捕獲といえば硬くなりますが、最近では英語表現をそのまま、フライ・キャッチと表現する図鑑も増えています。餌となる昆虫を捕えやすい場所、枝の先端部にでてくるため、観察は比較的容易で、多くの解説書では、比較的明るい林を好むとされています。どうも繁殖場所に際立った特徴はないようで、落葉広葉樹林、雑木林、カラ松林、スギ・ヒノキなどの人工林のいずれでも繁殖しているようです。ただ、さほどの高地での観察例は見当たらず、おおよそ2000メートルを上限としているようです。 かつては、平地の丘陵部でも営巣、育雛していたとの経験談も耳にしていますので、サンコウチョウなどと同様に、本来は平地の林で繁殖活動していたものが、都市化の波で次第に人の住んでいない丘陵地帯に押し上げられて行ったのだと思われます。
長野県戸隠森林公園→ ←さいたま市秋ヶ瀬公園 |
フライキャッチするのですから、昆虫を餌とすることはもちろんです。木の実などを啄ばむシーンもは目下観察できておりません。調べた限りでは、動物食性(主に昆虫食)だと思われます。よく、このコサメビタキは、サメビタキやエゾビタキに似ているといわれます。その3種類の中では腹部が白いのがコサメビタキといえます。ただコサメビタキの中でも、腹部がかなり汚れたり、個体差で煤けた灰色っぽいものもいますので、逆はまた真ならずです。まず腹部が真っ白に見えればコサメビタキで間違いありません。エゾビタキは腹部に明確な縦の斑が入っていますし、サメビタキは胸上部から両脇にかけて暗い灰色のぼんやりとした模様があります。
また第2の区別点として、嘴を下から見上げた際の色が挙げられます。下の画像をご覧ください。嘴を下から見た場合、嘴基部が黄色く先端が黒いのが特徴です。エゾビタキはほぼ全部が黒く、基部の一部だけが黄色く見えます(よく見えないことが多いのですが)。また、サメビタキは、嘴中央がふっくらした感じで、黄色の基部と先端の黒い部分が半分ほどを占めます。また、コサメビタキが一番先端部がとがった感じを受けます。
香港新界地沙田公園→ ←さいたま市秋ヶ瀬公園 |
コサメビタキは、夏の季語。
何を追ふ 小鮫鶲は嘴のばし 小林貴誉子
フライキャッチするコサメビタキの追う昆虫は小さく、素早い動きです。離れたところから見守る私たちの場所からは何の虫なのか分かりません。青々とした木々の先端から飛び立ち、また戻るコサメビタキの動きが目に浮かびます。冬へと向かっている日本ですが、今年国内で繁殖したコサメビタキ達は、いまごろ東南アジアのどこで越冬しているのでしょうか。
注)写真は、画像上をクリックすると拡大できます。