コチドリ(16㎝)によく似ていますが、一回り大きいイカルチドリ(21㎝)。あまり注目されないチドリの仲間です。最近のウキペディアによれば、イカルは古語で「大きい、厳めしい」の意と説明されています。つまり一番よく観察されるチドリの仲間、コチドリより大きいことからこの名前が付けられたと説明されています。また、「鳥名の由来辞典」(柏書房)では、「“イカルチドリ”の語源は不明であるが、コチドリより少し大きくて強そうに見える見えるためかもしれない」と記載されています。現在では、「イカル」という鳥名の野鳥がいますので、ちょっと混乱をきたしそうな命名です。
このイカルチドリの鳥名は、多くの野鳥の和名が明治期に決められたのに対して、大正期に定まったようです。前掲の「鳥名の由来辞典」にその経過が述べられています。つまり、「江戸時代にコチドリを“こじゅん”、イカルチドリを“おほじゅん”といって区別されていた」一方、他方で、「“くびたま” 後に “くびたまどり”と呼ばれる」ようになってきた。また江戸時代中期には“いかるちどり”とも呼ばれるようになり、「明治時代の鳥類目録の中には、イカルチドリ、クビタマチドリ、オオジュンを併記してあるものもあったのが、大正期になって現在のイカルチドリに統一された」ようです。
このイカルチドリ、コチドリより一回り大きいだけでなく、嘴と脚がコチドリに比べて相対的に長く見えます。英名で、長い嘴のチドリ、Long-billed Ploverと嘴の長さに着目したことにはうなずけるものがあります。コチドリに比べて、姿見のすっきりしたスタイリッシなチドリといえるでしょう。
このイカルチドリは、基本的には淡水性のチドリで河川の中流域や湖沼の周辺部で生活します。私が、これまで観察できたのは、荒川中流域(タイトル写真)、多摩川中流域、中禅寺湖畔(下左)、また自宅付近の神流川流域(下右)で、一度も汽水域や海水域で観察できておりません。その点、コチドリが干潟などの汽水域でも見かけることができるのとは異なり、生息域が狭いと思われます。ただ、全体としての生息数では、圧倒的にコチドリが多く、イカルチドリが少ないことからしますと、より多くの観察を継続すれば海辺に出現することもあるかもしれませんが。図鑑「日本の野鳥590」(山と渓谷社)によれば、「干潟や海岸に出ることは少ない」と説明されていますので、まったく汽水域や海水域にいないわけではなさそうです。
←中禅寺湖畔にて 神流川水系にて→ |
一般的には、留鳥ですが、北海道では夏鳥とされています。世界的な生息域は日本列島を含む、東アジア、ユーラシア大陸の東南アジア地域に限定されています。コチドリがユーラシア大陸のほぼ全域に生息しているのとは、対象的です。また、コチドリに比べて、黄色いアイラインの幅が大変細く、角度によってはまったく見えないこともあります。また脚もコチドリほど黄色くありません。下の写真(埼玉県神川町にて撮影)でご確認ください。コチドリに良く似た、しかし嘴と脚が長く、眼の周りの黄色い部分の目立たないイカルチドリ、探してみませんか。これまでの観察では、群れでいる状態を見かけたのは一度だけ(多摩川中流域)、それ以外は全て1羽だけの単独での観察です。
イカルチドリは冬の季語です。今回掲載しました画像は、全て冬に撮影したものです。また上左の中禅寺湖畔の画像で、背景の白い部分は氷です。 残念ながらイカルチドリを詠んだ俳句や短歌は記憶になく、今までのところ探し出せておりません。
注)写真は、画像上をクリックすると拡大できます。