英名に、Japaneseとありますが、必ずしも日本の固有種ではありません。中国東北部、中国南部にも生息する東アジアの鳥といえます。繁殖はあまり高くない山間部、冬季は暖かい平地に移動する漂鳥といえますが、その中間地帯では留鳥であるともいえます。
山間部と平野部を季節によって行き来する鳥は、時として大挙して平野部で越冬することがあります。ごく最近では、昨年(2009年)の冬、関東地方の都市公園の一部では多くのイカルを観察することができました。埼玉県北本市の北本自然公園では数十羽が、東京都小金井市の小金井公園では、100羽以上のイカルの群れをかなり長期間にわたって見かけることができました。おそらく繁殖地とその周辺の山々のその時々の餌の状態によって変化するものと思われます。
イカルの特徴は何と言っても、黄色く目立つ太い嘴です。ペットとして飼育されることもある文鳥を思わせる形状の嘴は、基部が太い割に短く、堅い木の実を押し砕くのに適しているかのように見えます。木の実を主に餌とするといわれていますが、立木の枝先の実だけでなく、例えば昨年の冬には地上に落ちた木の実をついばむ姿がよく観察されています。イカルという名称も、この目立つ嘴からきているようで、太い嘴の稜線が先端で急に下に落ちている(短い)ところから、稜起角(いかるが)から由来するという説が有力のように思われます。木の実をよく食べるからでしょう、豆鳥(まめどり)とか、豆割(まめまわし)とか、まめまはし、という異名も付けられているようです。採餌の様子をよく観察しているものだと感心します。タイトルの写真は、埼玉県武蔵丘陵森林公園で、カエデの実を啄むイカルです。
下の写真は、山の鳥たちが水浴びに来る水場で撮影したもの(群馬県伊香保森林植物公園)です。観察していますと、ここに来る他の野鳥、ヤマガラ(14㎝)、ヒガラ(11cm)、キビタキ(14㎝)、オオルリ(16㎝)に対して、イカルは23cmあり、一回り以上大きいことがよく分かりました。山の小鳥たちの中では、群を抜いて大きい鳥だともいえます。また、国内で観察できるアトリ科の中でも最大なのです。水浴びするイカル |
イカルの身体は全体としては薄い褐色味を帯びた灰色で、頭、翼、尾は光沢のある黒色と説明されるのですが、上の写真のように、光線によって羽根の一部分に青味がかなり強いことが分かります。下の写真は、木に止まったイカルを斜め後ろ側から撮影したものです。顔の部分の黒、羽の部分の青と黒、そして白い白斑のバランスがよくお分かりいただけると思います。
斜め後方からのイカル |
奈良時代の中心、聖徳太子で有名な斑鳩の里(現、奈良県生駒郡斑鳩町)は、どうもこの地にイカルが多く見られたことから付けられたようにも思えます。面白いことに、イカルの漢字表記には、タイトルにもありますように、斑鳩と、鵤の二種類が奈良時代からあった(鳥名の由来辞典)ようですが、この辞典によれば、斑鳩は誤用で(斑鳩はジュズカケバトの漢名)正しくは、鵤で、鳥名はその誤用がそのまま今日に至っていると説明しています。
イカルの地鳴きは、キツツキに似て「キョッ、キョッ」と聞こえますが、囀りはとても聞きなしとしてあげられる「月日星」や「お菊二十四」とは聞こえませんでした。「キーコーキーコキョキョ」といった感じでしたが、いずれにせよとても目立ち綺麗だったことは間違いありません。次のURLから、イカルの声を聞いてみてください。
http://www.geocities.jp/ssyhbb/ikaru/050424ikaru.htm
イカルは夏の季語。
豆粟に来て鵤や隣畑 松瀬 青々
いかる来て起きよ佳き日ぞと鳴きにける 水原 秋桜子
短歌でも、イカルはその声に注目して歌われています。
春の日ののどかにかすむ山里に ものあはれなるいかるがの声 寂蓮法師
庭の木に来啼くいかるの聲明るし もの蔭の雪まだ残りゐて 隅田葉吉
今年の冬、関東地方の平野部へのイカルの訪れはどうなのでしょうか。通常多く来た翌年は、少ないとされていますが。気になるところです。
(注)写真は、画面上をクリックすると拡大できます。