名前を聞いただけでは、野鳥にあまり関心の無い方はどんな鳥だろうかと思われるかもしれません。実は、浜辺に出かけられた方の多くが見かけたことがあるはずなのです。おそらく、シギチドリの仲間の中では、全国的に最も個体数が多いのではないかと思われるほどに季節になると普通に観察できる、スズメほどの大きさの小さいシギなのです。春と、秋から初冬にかけて、浜辺や磯にいるシギチドリの中で最も小く、個体数が多く、嘴、脚ともに黒くそれほど長くなければ、まずトウネンと思ってよいでしょう。
繁殖地は北半球北部、シベリア北東部からアラスカ北西部のツンドラ地帯。越冬地は、南半球、東南アジアからオセアニアにかけてです。日本にはその旅の途中の春と秋に立ち寄る「旅鳥」ですが関東地方では、夏の終わりから初冬までかなり長い期間観察できます。又その一部は南下せず、越冬もしています。
トウネンは、ほとんどの場合群れで行動します。数羽から100羽を越すほどの群れにもなり、残念ながら目撃はできておりませんが、渡りの時期には数万の大群ともなると言われています。浜辺、磯、河口、水のある田などで観察可能で、海水域、汽水域、淡水域を問うことなく広く餌を求めてやってきます。泳ぎながら餌を採ることはないようで、常に脚の届く範囲の浅い水場やその周辺をせわしなく行き来します。
浜辺の小さい群れ |
「鳥名の由来辞典」(柏書房)によりますと、江戸時代の呼び名は、「とうねご」もしくは、「とうねごしぎ」で、当年子という漢字が当てられ、「その年に生まれた子の意味でつけられたとされている」と解説されています。この鳥の体が小さいところから、今年生まれの鳥、当年(トウネン)だと多くのサイトや図鑑で説明されます。ただこのトウネンは、上にも述べましたように小さいだけでなく、実によく動き回って餌を探します。この姿が実に元気よく見えるのです。ですから、当年子には、小さいだけでなく、子供のように活発に動き回るという意味も含まれているように思われます。
英名のRed-neckedは、夏羽では首周りから顔にかけて赤褐色になることから付けられたようです(学名も同じです)。タイトルの写真は、ほぼ夏羽に換羽した個体です。下の写真のトウネンはほぼ冬羽です。夏と冬でかなり羽の色と模様が変化することがお分かりいただけると思います。
冬羽のトウネン |
トウネンは雌雄同色で外見上の区別はつかないとされています。囀りに関する記述は図鑑でも見かけたことはありませんし、聴いたこともありません。群れで動き回る際に、小さい声でチュリリ、チュリリと聞こえるのは地鳴きにあたるのだと思います。
トウネンは秋の季語とされていますが、トウネンを読み込んだ俳句や和歌、短歌にはお目にかかっていません。トウネンとハマシギが分かること、それが、シギ・チドリの世界の入り口だと私は思っております。
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