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第68回 2008/7/1
偽善エコロジー

柿喰ふ子規の俳句作法

著者:武田 邦彦

発行所:幻冬舎新書
出版年月日:2008530日(初版)
価格:740円(税別)
ISBN:
 978-4-344-980808

http://www.gentosha.co.jp/search/book.php?ID=300391

 今年2008年の正月元旦、大手新聞のほとんどは、「環境問題」を取り上げ、ある新聞社は特集を組んだり、また別の新聞は環境保護論説記事に多くの紙面を割きました。今年7月には日本が主催国となる、「洞爺湖サミット」が予定され、そこで地球温暖化防止策が協議されることになっていることが、こうした傾向に拍車をかけているのでしょう。外務省は、「北海道洞爺湖サミット」のサイトを立ち上げ、一般国民だけでなく、プレス専用の情報まで提供しようとする意気込みです。

http://www.g8summit.go.jp/index.html

 このサイトの中で、福田首相は、「地球温暖化は、人類にとって待ったなしの大きな挑戦です」とし、「すべての主要排出国が参加する枠組みづくりや公平な目標設定に責任を持って取り組む決意」だと述べています。残念ながら、何の排出なのかは抜け落ちていますが、おそらく二酸化炭素を指しているのでしょう(英訳文でも何をという目的語が見当たりませんでした)。このおそらく『重要な』目的語を欠いた声明文になんとなく偽善性を感じるのは私だけでしょうか。

 今日、地球温暖化の犯人が急増する二酸化炭素の絶対量であることが前提となって、すべてのエコロジー活動が啓蒙されています。著者は、日本がかつての京都議定書で約束した二酸化炭素の6%削減を達成できたとしても、「世界全体からすれば0.3%」にしかならず、「世界全体は一年で2%ぐらい二酸化炭素の排出量が上がっていますので」、「まったく日本の努力は無になることになります」と看過し、「温暖化を防ぐことはできない。このことを、私たちは勇気を持って認めることです」と結論付けています。

 この著作全体を通して、著者のフィルターを通さず、自分の目で科学的に事実と実態を見極めようとする姿勢には大いに共感するところがあります。しかしまず、地球温暖化と二酸化炭素の絶対量の増加とは本当に関連しているのかどうかが、私には疑わしいのです。本年の「文藝春秋」5月号に、「地球はこれから寒冷化する」という論文が掲載されました(丸山茂徳・東京工業大学教授)。

 実に重要で、示唆に富み、多くの人々が今後大議論すべき文章でした。残念ながら、マスメディアはまったくといってよいほど無視しているかのように見えます。少なくとも、洞爺湖サミットを主導しようとする官邸と、外務省は、真っ向からこの論説に立ち向かうべき内容だったのですが、上にあげたサイトでは今日現在何も触れていません。

 地球環境を全地球史的に捉えた場合、現在は人類誕生後四度目の氷河期の後にあたる、間氷期であり、いずれ五度目の氷河期に突入するというのが私の、そしておそらく多くの人々の「常識」でした。しかし、2005年に発効した「京都議定書」では、「現在のように石油、石炭のような化石エネルギーに依存する高成長社会が続けば、二十一世紀末の地球は前世紀末より約四度の温暖化が進み、生物種の四割以上が絶滅し、生態系は壊滅する」と予見しています。これに呼応するかのようなアル・ゴア前アメリカ副大統領の主導した映画・「不都合な真実」は、地球温暖化による様々な弊害を訴え、2007年ノーベル平和賞を受けました(英国では、この映画が裁判沙汰になり、上映に際しては間違いを指摘し、危険のあおりすぎに注意することが条件付けられたと、武田氏は「偽善エコロジー」の中でエピソードを紹介しています)。日本の国営放送局NHKも含めたすべてのマスメディアの環境保護の啓蒙的な報道もほとんどこの線上にあるといってよいでしょう。従来の氷河期へと向かうという常識と、突然の温暖化の危機説、いったいどうなっているのでしょうか。

 上に触れた論文の中で、丸山氏は、この一世紀の平均温度上昇が0.6度であった一方(それは地球の歴史上、ありふれたことなのだとし)、「世界中で化石燃料を急激に消費しはじめ、大気中のCO2濃度が急増した1940年から1980年の四十年間を見ると、0.1度ほど地球の気温は下降している。これだけとってみても、温暖化の主犯がCO2であるという説は崩壊している」と述べているのです。また丸山氏は「温暖化の原因」として、「この四百年ほどの統計を見て」、「日光照射量が最大に達している」ことを挙げています。つまりここ数年来、温暖化の兆候が大きく報道され、その主犯が二酸化炭素であると宣伝されてきたことには、科学的な合理性がないと訴えているのです。

 地球温暖化の主犯を二酸化炭素の増大に求め、その二酸化炭素削減のためと称する現在の行政の環境保護の取り組みがいかに欺瞞に満ちているかを、この「偽善エコロジー」は一つ一つ解説しています。「狂牛病は恐ろしい」の章以外のすべてに私は合理性を感じます。「狂牛病」については、このコラム第35回でも取り上げた、福岡伸一氏の立場に賛同します。

http://www.cec-web.co.jp/column/midare/midare35.html

 「偽善エコロジー」の著者、武田邦彦氏にしろ、「地球はこれから寒冷化する」の著者丸山茂徳氏にせよ、大量生産、大量消費が化石燃料を前提として成立している社会を放置してよいと語っているわけではありません。武田氏は、ヒトが生きていくための環境を守っていくという名目で、いかに税金が商業的に無駄金として浪費されているかに警鐘を鳴らし、環境にとって不要などころか、より悪化を招くことになる「エコロジー政策」に大上段に反対しています。リサイクルすべきでないもの(若しくはリサイクルの名目で高い費用で焼却しているもの)は、なるべく数多く使用して適切に廃棄すべきです。ただその先を丸山氏は見据え、いずれなくなる化石燃料に頼らない「低炭素社会」への模索を提唱しています。

 ムダをなくすリサイクル活動が、実はもっと大きなムダを生んでいるとすれば、それ自体は止めるしかありません。冷静な科学者の声に耳を傾けようではありませんか。21世紀に入り、世界経済が大きな曲がり角を迎えていることと、必要以上に危機をあおりたて、不必要かつ不適切なエコロジー政策に膨大な税金をつぎ込み、それを環境保護という風呂敷で包み込んでいることには、いやな関係がありそうでなりません。この本に対する反論を、エコロジーを推進している行政担当者からぜひ聞きたいものです。また、児童を指導しておられる教職に就かれている皆様方には、眼を通していただきたいと切に願います。






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