ミサゴ: ユーラシア大陸、北アメリカ大陸、そしてアフリカ大陸北部、更には豪州にまでと、極地を除く全世界に広く生息分布する大型のタカの仲間です。関東地方では、千葉県九十九里浜、関東四県に渡る渡良瀬遊水地の谷中湖周辺などがこのミサゴをよく観察できる場所として有名です。海岸でも、湖でも、主たる餌である魚が採れる、広い場所を生息圏としています。
魚影を探すミサゴ |
ミサゴといえば、誰しもダイナミックな魚の捕獲を思い浮かべるのではないでしょうか。水面から高く飛びながら、上の写真のように魚影を探し、見つけると、下の写真のように僅かにホバリング(空中停止)飛行し、狙い済ますや頭から水面めがけ降下します。水面近くで脚をだし、大きな水音を立てて着水し、魚を捕捉します。
ホバリングするミサゴ |
ミサゴの外指(第四指)は稼動範囲が非常に広く、ある解説書では前後に反転できるとも記されています。通常、鳥類は前に3本、後ろに1本、合計四本の指足がありますが、前3本のうち外側の1本(第4指)が後ろにも横にも曲がるとなりますと、動く獲物を捕まえるのには最適です。また指の裏にトゲがあるともいわれ、体表にぬめりが多い魚をきちんと捕捉するのに適しているのでしょう。一旦魚を捕らえますと、水面から飛び立ち、魚を体と平行に左右の足で確保し、(またこのとき左右の足は必ず前後させ、魚の頭は前向きです)、ほぼ決まった場所まで運んで餌を食べます。冒頭にミサゴの主食は魚であると書きましたし、そのように解説された図鑑も多いようです。私も魚以外の生き物を捕獲したり、食べているシーンを見たことがありません。また育雛中に、雛に与える餌も、多くの目撃例に眼を通しても魚だけのようです。ですから、主食というよりも、魚しか食べないタカといってよいかと思います。
このミサゴの狩り(フィッシング)の成功率は、私が見る限り50%程度であまり高くないようです。もっとも餌場の魚群の濃さに大きく左右されるでしょうが。 またどうも魚の種類による好き嫌いはないように見受けられます。更に、魚の大きさもあまり斟酌しないようで、せっかく一旦捕獲した魚が大きすぎて水から持ち上げられなくて放してしまう場面も見かけました。以前、テレビの自然観察の番組で、頭にツノが二本生えたイルカが紹介されたことがありますが、その説明によると、これはミサゴの脚で、深く食い込んだために離すことができず、水死したミサゴの遺品(遺骸の一部)であろうとのことでした。魚影を見れば相手かまわず捕捉しようとしてしまう、本能のなせるところでしょうか。
万葉の時代に海辺のミサゴがこう詠まれています。「水沙児(みさご)居る沖つ荒磯に寄する波行くへも知らず吾が恋ふらくは」(作者未詳)また、淡水系のミサゴが平安時代に記載されています。「中島なる五葉に、みさこ、池より立ちて、三寸ばかりの鮒をくひてをりけるを」(宇津保―内侍督)水辺の大きな鷹は、古来より目立つ存在だったようです。
ミサゴは冬の季語。海辺のミサゴのほうが、より尊厳を帯びて見えるのでしょう。俳句では海辺に押し寄せる波とあわせてミサゴがよく詠まれています。
海の門のしぐるる岩に鶚(みさご)かな 水原秋桜子
波こえぬ契りありてやみさごの巣 曾良
鶚飛ぶ潮ひびかせて立つ巌 上村占魚
飛行中には判からないことが多いのですが、ミサゴには後頭部にあまり目立ちませんが冠羽があります。地上に降り立ったミサゴの頭部をご覧ください。威厳を帯びて見えませんか。ミサゴの名前の由来は、諸説あるようです。水サグルからとも、水捜(ミゾサガシ)からとも言われています。いずれにせよ水辺にいることがこの名前の語源に関係していることは間違いないようです。ミサゴのミは水(ミズ)から来ているといってもよいでしょうか。
海辺で、大きな池や湖で、空高く飛ぶ大きな鳥がいましたら、「トビか」と気落ちして見過ごさず、「ミサゴではないか」とちょっと注意して見上げ、お腹の色にご注目ください。白っぽかったら、まずミサゴです。