アオゲラ:あまり多くの方には知られていないようですが、キツツキのなかでもアオゲラは日本固有種で、日本を代表する啄木鳥(きつつき)ともいえます。そのため、英名にも Japanese green woodpeckerとされ、また学名でも和名が awokera と読まれそのまま採用されています。ヒヨドリより大きな目立ちやすい山の鳥です。
以前、「ルリビタキ」の項目でも触れたかと思いますが、古来日本語では緑色をアオ、青色をルリと表現、表記することが多かったようです。このアオゲラも、背中はちょっと褐色味を帯びていますが綺麗な緑色をしています。この緑色をアオとし、啄木鳥の仲間の共通語、ケラと接続されアオゲラと名付けられたようです。本州から南は屋久島までが生息圏であるとされています。アカゲラのメスの頭部には赤い斑はありませんが、アオゲラにはオス、メスともに後頭部に赤い斑が明瞭に見えます。ただオスはこの斑が頭頂部から嘴の方にまで伸びています。また顎(あご)の部分にも赤い斑がありますが(顎線)、メスよりもオスのほうがこの赤い部分が大きいのです。タイトルの写真はオス、下の写真はメスです。頭と顎の部分の赤斑の大きさ(長さ)を比較してみてください。
アオゲラ メス |
もう少しこの日本キツツキの色彩上の特徴を述べてみましょう。上にも書きましたように、背中は緑褐色、腹部を含む下面は灰褐色です。私が見た図鑑ではふれられたものがありませんでしたが、経験上メスの背中よりもオスの背中の方が緑色が広く派手なように見えます。腹部には黒い斑が入っています。図鑑によってはこれを横斑と記載していますが、よく見ますとV字型をしています。タイトル写真の右脚の上の部分をよくご覧になってください。この腹部の黒斑の有無が北海道産のよく似た啄木鳥、ヤマゲラとの違いです。ヤマゲラにはこの黒斑がありません。写真では判りにくいかもしれませんが、尾の先端は黒です。また上嘴は黒灰色、下嘴は黄色味が強く入り、その先端は黒です。
このアオゲラだけでなく、多くのキツツキは、前後に2本ずつに分かれた、専門用語で対趾足(たいしそく)と呼ばれる構造をしています。これは樹木の表皮を掴みやすくするのに便利な構造です。虹彩はタイトル写真でお判りの通り暗赤色です。
アオゲラは雑食性です。木の実を採る一方、昆虫類、クモ類なども餌の対象です。樹幹を登りながら採餌しますが(ゴジュウカラと違い、頭を下にして下がることは出来ません)、時として後ずさりもします。その際閉じた羽の最後部を幹に押し付け、バランス上の基点として体勢の維持に役立っているようです。
ちょうどこの時期、4~6月が営巣、育雛期間で、雌雄共同で雛を育てます。私の観察では、どうもオスが積極的に巣を準備し、メスとのカップリングを確保しているように見受けられます。下の写真左側は、出来たばかりの巣から顔を出しているオスで、これから抱卵に入るところ。 右側もオスですが、既に雛を育て始め、餌の確保に出かけようと周囲を気にしているところです。
営巣中のアオゲラ
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育雛中のアオゲラ |
大音量で、「キョッ、キョッ、キョッ、キョッ」と突然静かな森の中のすぐ真近で鳴かれて、びっくりした経験があります。また繁殖期間中には、もう少し穏やかに「ピョー、ピョー、ピョー」とも聞きなせる柔らかい鳴き声で、恐らく番のパートナー、もしくは育てている雛と連絡を取っていると思われる鳴き声も耳にしたことがあります。
アオゲラを含めた啄木鳥の季語は秋です。
青啄木鳥の高鳴きくもる露の山 水原秋櫻子
キツツキのドラミングをテーマにした句です。
木つつきの死ねとて敲(たた)く柱かな 一茶
啄木鳥も庵は破らず夏木立 芭蕉
ネット上で、キツツキをどうして啄木鳥と漢字表記するのかという書き込みがありました。石川啄木が詩を創作する際に、あたかもキツツキのように机にしがみつくからとの「解答」が載せられていました。芭蕉の句をみれば、その解答が駄洒落であることがわかります。
森で、とてつもなく大きな声で、「キョッ、キョッ、キョッ、キョッ」と声がしたら、アオゲラです。声の方向を探してみてください。日本にしかいないキツツキです。