チュウサギ: ユーラシア大陸、アフリカ大陸、そしてオーストラリアに生息分布する、シラサギの仲間です。南北アメリカ大陸での生息はないと報告されています。日本では、西南諸島から北海道まで全地域で観察されています。読んですぐにお判りのように、コサギより大きく、ダイサギより小さいことからチュウサギです。関東地方では、春、田植え前後にやって来て、稲刈りの頃には去っていく夏鳥です。タイトルの写真も、下の写真もともに田植えの時期に田圃の風物詩を彩るチュウサギです。
ドジョウを捕らえたチュウサギ |
さほど珍しい野鳥とはいえませんが、大きさだけでは、他のシラサギと区別することはそれほど容易ではありません。まず、非繁殖期には単独で行動することが多いため、大きさの比較ができづらいのです。また、他のシラサギと一緒にいても、個体差や、その時々のしぐさ、それと見る場所から距離が必ずしも一定ではないことが多いからです。最初に、他のシラサギとの区別のポイントを挙げましょう。
まず脚は全体として黒で、足先の足指の部分も黒です。この点で、足指の部分が黄色いコサギやカラシラサギとの区別が付きます。また、クロサギの白色型の脚は、幾分黄色味がかっています。脚に注目して、足指も含めた脚全体が黒いシラサギは、ダイサギ(亜種オオダイサギと亜種チュウダイサギ)か、チュウサギに絞られてきます。
嘴の長さですが、相対的に、ダイサギは長く、チュウサギは短いといえます。同じことが首にも言えます。まっすぐに伸ばしたとき、体全体との比較で、ダイサギはスマートに長く、チュウサギはちょっと短い印象を与えます。一番判りやすいのは、繁殖期を迎え、婚姻色が出てきますと決定的です。ダイサギの目元から嘴にかけては綺麗な緑色が浮かんできますが、チュウサギではそれほど強い緑色は出ることがなく、僅かに黄緑がかって来るという程度です。
ダイサギもチュウサギも、繁殖期には嘴が黒くなり、それ以外の季節には黄色で、季節によって変化があります。その点、コサギは基本的に黄色です。しかし黄色から黒に変化する嘴も、個体差が大きく、嘴全体が真っ黒であったり、嘴の先端には黄色味を残して他が黒かったりします。ただおおよその目処として、春先に飛来した個体で、嘴全体が黄色で、先端だけ僅かに黒い部分を持つシラサギは、大体チュウサギであることが多いようです。下の写真をご覧ください。真夏に集団営巣地で育雛中のチュウサギです。嘴が黒いのがご確認いただけるでしょう。
育雛中のチュウサギ |
更に、嘴の根元から、眼の下に線が延びていますが、これを口角と呼びます。この口角が、明らかに眼よりも後方まで伸びていればダイサギ、眼の中央部のあたりでとまっていればチュウサギといえます。下の写真をご覧ください。口角が眼よりも後方には伸びていない典型的な個体です。またこの個体は、上と同じ集団営巣地で同じ時期に撮影したものですが、嘴の色は全体として黄色く、先端に黒味が入っています。嘴の色にはかなりの個体差があることがお分かりいただけるでしょう。
典型的な口角のチュウサギ
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俳諧の世界では、ダイサギ、チュウサギ、コサギを指定した句を見かけたことはありません。いずれもシラサギ、夏の季語として取り扱われているようです。シラサギについては、この徒然野鳥記、第46回「ダイサギ」(2005年9月1日)をご参照ください。
白鷺山森の入り口はたと昏し 平井さち子
美しき距離白鷺が蝶に見ゆ 山口誓子
皆さんは、ダイサギ、チュウサギ、コサギのどれがお好きでしょうか。私は、嘴の色に変化の多い、あまりスマートとはいえないまでも、田圃の緑に最もマッチしているように見えるチュウサギが一番気に入っていますが。
(注)第46回「ダイサギ」のページで、平成5年の『世界鳥類和名辞典』を参照して、ダイサギをアオサギ属、チュウサギ、コサギをシラサギ属と記載しました。しかし2000年(平成12年)の「日本鳥類目録」改定第6版で訂正されていることがその後分かりましたので、ここに訂正いたします。「目録第6版」では、これら3種すべて、コサギ属(Egretta)に分類されています。また、ダイサギの学名は、Egretta alba とされていますので同時にここで訂正いたします。