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第32回 2005/02/01
環境考古学への招待
32

書名:環境考古学への招待
著者:松井章
出版社:岩波書店(岩波新書)
出版年月日:2005年1月20日
ISBN:4−00−430930−1
価格:777円(税込)
http://www.iwanami.co.jp/shoseki/index.html (岩波新書検索へ)

従来の考古学が、どのような生命体(what)が、いつ、どこに存在したのか(when、where)を研究するものであるとすれば、この(私にとってだけかもしれませんが)耳慣れない「環境考古学」とはその生命体が「どのように」存在したのか(how)を研究、解析しようとする新しい研究分野であるように読みうけられます。またこのどのように存在したかがわかれば、より一層、時代と場所の一層の明確化に結びついていく、重要な連結環ともなっているようです。

著者の「はじめに」の説明によれば、「環境考古学という名称は、そもそもイギリスで確立した分野で、ゴードン・チャイルドという著名な考古学者がロンドン大学の考古学研究所に環境考古学部門を設けたのが最初といえる。その後、シカゴ大学のロバート・ブレイドウッドがメソポタミアの農耕・牧畜の期限の研究のため発掘隊を組織した際に、動物学者、植物学者などをチームに加えて合同調査団を組織し、従来の考古学だけの発掘に比べて、格段の大きな成果を上げたことなどが、その確立に大いに役立っている」とこの学問・研究分野の成り立ちを説明しています。

本文の構成は次のようになっています。

第一章 食卓の考古学
第二章 土と水から見える古代
第三章 人、豚と犬に出会う
第四章 牛馬の骨から何がわかるか
第五章 人間の骨から何がわかるか
第六章 遺跡保存と環境

この本の帯にこううたっています。
「骨のかけら、花粉、土、すべてが手がかりになる。考古学は推理小生よりスリリング」だと。各章のタイトルもなんとなくわくわくさせるものがあります。

ここ日本の自然環境は、概してこの環境考古学には適していなかったようです。土壌の対部分が火山灰による酸性土であること、四季の変化により日差しによる乾燥化と雨による湿潤化の永続的な繰り返し、これらが動植物の当時存在したであろう姿の痕跡を留めることを極めて困難にしてきたからだと説明されます。しかしこの困難さを乗り越える必要性が、世界でも新しい分析方法を開発していった積極的な原因ともなったようです。土壌微細形態学の確立、新しい遺伝子配列解析手法の開発、等々。推理小説よりスリリングなのですから、上に挙げた各章の答えは述べないことにしましょう。このような疑問に対する回答の推論が、十分な説得性を持って語られることに驚きを覚えられること請け合いです。

最後に、本書に限らず、自然や環境を考える研究者の全てが、現在の行政の環境施策に批判的にならざるを得ないことはなんとも嘆かわしいものです。