太い嘴の形を見ただけで、いかにも、力強く硬い餌を噛み砕く能力の高さをうかがわせる、冬に渡ってくるスズメよりもふた周りほど大きな、目立つ野鳥です。アトリ科の野鳥には、すでにこの「野鳥記」でご紹介した、カワラヒワ、ウソ以外に、マヒワ、アトリなどがいますが、いずれも嘴が短いのが特徴です。このシメと嘴の形状がよく似ているのがイカルとコイカルです。基部が太く、先端にまっすぐ短く延びきっています。例外的に、アトリ科の仲間では、面白い嘴の形状をした鳥がイスカです。イスカの嘴は、その先端で上下が交差するのです。上嘴は右に、下嘴は左にと曲がっています。これはイスカの主要な餌であるマツの種子が、その殻の奥にあるためそれをそぎとるのに便利なように進化したものと考えられています。
雌雄の区別は比較的に簡単で、眼から嘴にかけての斑が黒くはっきりしているのがオス、薄い褐色なのがメスです。タイトル写真がオスです。またオスは羽のパターンが明確で、白、黒、橙色、薄紫色と色彩豊かですが、メスは下の写真でもお分かりのとおり何とも地味な色合いをしています。
シメは、高山の奥山だけに来るわけではなく、開けた都市部の公園などでも意外とよく見かけることができます。また木の梢で採食するだけでなく、地面に降り立って落ちた果実を探す姿もよく目にするところです。ユーラシア大陸に広く分布するといわれています。日本では、北海道などの北部で夏繁殖し、冬には本州南部以南に移動するといわれていますが、本州で冬見かけるシメの中には、大陸部やサハリンなどから越冬する集団もあるといわれています。
シメの「し」は、この鳥の地鳴きが「シッ」と聞こえ、「め」は小鳥を表現する接尾語であることからつけられたという説が有力なようです(東京書籍、「鳥の名前」)。南北朝の時代の辞書、「名語記」(みょうごき、1275年)によると、「鳥の名にしめ如何。答、なくこゑのしときこゆれば、しめと云也」とありますから、この語源説を裏付けているようです。
「鳥名の由来辞典」(柏書房)によりますと、奈良時代には「ひめ」もしくは「しめどり」とよばれ、江戸時代に「しめ」と定まった(本朝食鑑)といわれています。「鳥の名前」ではその中間の平安時代には「ひめ」と「しめ」が併用されていたとする説をとっています。万葉集に次のように解説があります。
「宮の前に二つの樹木あり この二つの樹に斑鳩(いかるが)と比米(ひめ)と二つの鳥大(いた)く集れりき」 おそらくここで「斑鳩」と呼ばれている鳥は「イカル」のことではないかと思われます。よく似たニ種類の鳥が同じ場所に来たことをうかがわせますが、現在では、イカルは亜高山に住み、里山で見かけることはなく、イカルとシメがともに集まった奈良の時代からの環境の変化を思い知らされます。
野鳥図鑑などでは、比較的に地味な鳥と表されることも多いのですが、特にオスは、白光下ではさまざまな色彩のコントラストが実に鮮やかに思えます。ただ飛ぶ様子はあまりスマートとは言えず、起点から目標に向かって比較的に直線的にスーっと飛んでいきます。あまりあわてた様子はありません。
季語では秋。残念ながら、シメを歌った俳句を発見することはできませんでした。枯葉の落ちた木々の先端をよく見てください。ムクドリほどは大きくなく、スズメよりはかなり大きい野鳥がぽつんと止まっているかもしれません。その鳥の嘴が、たとえばペットショップでみかける文鳥のようでしたら、まずシメに間違いありません。 下は、堅い木の実を食べようとしているシメオスです。
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