前々回、ご紹介しました「シロハラ」の兄貴分ともいえます、「アカハラ」です。シロハラより一回り大きく、関東地方の平野部では冬場にやって来る、冬鳥です。本州中部以北の山間部で繁殖していますので、漂鳥ともいえます。ただ正式な分布上は、本州中部以北から遠く、サハリン、南千島でも繁殖し、冬場には、時として西南諸島、中国南部、フィリピンにまで南下して越冬するといわれています。ですから、冬の公園などの平野部で見掛けるアカハラが、国内の山間部からのものか、遠く千島からのものかは判別がつきません。下は、餌を咥えたアカハラです。雛のために運んでいる途中かと思われます。
頭から背中にかけては茶褐色、胸と両腹部は、赤みを帯びた橙色です。腹部の中心は白色です。大きさ、色彩ともによく似た野鳥に、マミチャジナイとアカコッコがいます。まずマミチャジナイは、眼の上にはっきりとした白い眉線があります(アカハラにはそれがありません)ので、この点で区別は簡単です。アカコッコは、まず三宅島に代表される伊豆諸島にしか生息しないといわれていますし、頭部が胸にかけてまで全体として真っ黒で、嘴の黄色味が鮮やかに見えます。頭部というよりも顔の部分がかなり黒っぽい、亜種オオアカハラとの区別はかなり困難ですが、上胸まで黒いツグミはアカコッコと記憶していただければ、アカハラと見間違えることはないと思われます。
「シロハラ」の項目でも触れましたが、ツグミ類の古い呼び方は、「しなひ」もしくは「しなへ」だったようです。「シロハラ」と区別する上で、「あかじなひ」もしくは「あかじなへ」、または「あかはらしなひ」と呼ばれるようになり、江戸時代に、「アカハラ」と呼称が定まったようです。余談ですが、お腹が赤いニホンイモリや、繁殖期に婚姻色として雌雄ともに3本の赤い条線を浮かび上がらせる魚のハヤ(ウグイ)も、時としてアカハラと俗称されます。
鳥のアカハラは、比較的に開けた場所を好むようです。シロハラがちょっと奥まった林に入り込むのに対して、アカハラは林縁部や、疎林帯などの明るい林で見かけることができます。6月以降の秩父の山では、「キョロンキョロン・チリチリリ」と聞き取れる、結構大きなアカハラの声をよく聞くことがあります。雑食性で、落ち葉の下のミミズ、昆虫類、クモの外、カキの実などの木の実も採食します。
山間部で夏場によく声が聞こえるからでしょうか、季語は夏。シロハラと異なりよく俳句に歌われています。
赤腹鶫(あかはら)に明易(あけやす)き樅のそびえたる 水原秋桜子 あかはらの青蔦ごもり雛育つ 田中灯京 赤腹が見上げてひらく山辛夷 森澄雄 |
様々なアカハラの生活場面での様子が歌われています。短歌でも綺麗な歌があります。
はるなれど赤はらつぐみきて鳴けば葛飾野べはいとどさびしき 中勘助 |
都市部でも、林のある公園ではかなり見掛ける可能性が高いはずです。 お腹の橙色が鮮やかな、ツグミのスタイルをしたアカハラを探して見ませんか。
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