本州から北海道にかけては、山間部から、平野部に至るまで、それほど珍しくなく見ることのできる代表的なキツツキです。世界的には、ユーラシア大陸中緯度地方に広く分布するといわれています。九州、四国ではあまり見かけることが少ない留鳥です。背中が黒く、そこに白い斑状の模様が点々と入っています。下肩の部分から肩先にかけて、漢字の八の字を逆さにした大きな白斑が目立ちます。ムクドリと同じ程度の、比較的に大きな野鳥といえます。
お腹は白く、なによりもその下部から尾筒が赤くとても目立ちます。雌雄ともに頭部は黒いのですが、オスは後頭部が赤く、メスは黒一色ですので、雌雄の区別はつきやすいといえます(但し、幼鳥期には頭頂部が赤くなっています)。写真は、メスです。アカゲラより一回り大きなオオアカゲラは、オスですと頭部の全体が赤く、また雌雄ともに背中に八の字を書くほどの大きな白斑はありません。またオオアカゲラは腹部に斑がありますが、アカゲラにはありません。
ケラはキツツキの仲間全体を指す古名です。「ケラツツキ」が略されたもので、「ケラ」自体は、ケラ=虫という説と、ドラミングの時の音からきているという説があるようです。赤の目立つキツツキということから、既に江戸時代中期にはアカゲラと定まったようです。古くは、別名として「テラツツキ」(寺つつき)とも呼ばれたようです。
普通、枯れた木の幹を強くつつきながら、中にいる昆虫の幼虫を捕食するのですが、意外と食層は広く、樹木の実もえさとするだけでなく、葉に止まっているチョウやガの幼虫も食するようです。落葉広葉樹は、冬場、幹の表皮が枯れた状態になりますが、その部分を嘴の強い力ではがしてしまい、裸となった幹をつついている様子を何度も眼にしました。必ずしも枯れて生命力を失った木だけを、餌場としているわけではなさそうです。
比較的開けた疎林帯で見かけることが多く、広場などに単独で生える木に止まった姿は見かけたことがありません。飛び回る際、「キョロキョロ」とかなり甲高い声で鳴きますが、これはさえずりではなく、他の鳥で言う地鳴きにあたるものでしょう(この声は、オオアカゲラと区別が付きません)。キツツキの仲間はさえずりをしません。その代わりに、独特のドラミングと呼ばれる自己表示をします。これは枯れた枝などを嘴でたたき続けるもので、たたく対象の木の状態でその響きは大きく変わりますが、「ドドドド」と強く低く聞こえることも、「カンカンカンカン」と高く聞こえることもありました。このドラミングの映像と音を記録したURLがあります。
http://www.watchme.tv/v/?mid=bfb7adf7a99438807f685ad24c7dd7fd
通常、一秒間に数回程度のつつき方ですが、春先から初夏にかけてのドラミングでは、一秒間に平均20回もの速さで木をたたき、見ているとあたかも頭をぶつける自殺行為のようにさえ見えます。このアカゲラ、嘴の根元の筋肉が他の鳥よりはるかに発達しており、木を強くつついた際の緩衝となっているほか、木の幹に穴を開けて昆虫の幼虫を捕食するための長い舌を収納している頭蓋骨は、分厚いスポンジ状となって、これまた衝撃に耐えられる構造となって、この二重の緩衝装置が、驚くべき素早いドラミングを可能とさせているようです。
キツツキ目の特徴の一つに、その趾(あしゆび)の配分にあります。通常、野鳥は前趾が3本、後趾が1本ですが、キツツキの仲間は、前趾が2本、そして後趾も2本となっているのです。こうした趾の構成を、対趾足と呼ぶようです。このような趾の構造を持つ仲間に、カッコウ類がいます。面白いことにフクロウの仲間は、第4趾を前にも、後ろにも使用することができます。つまりフクロウ類は、通常の鳥の趾の配分であったり、対趾足であったりすることができるのです。
季語は秋。
赤啄木鳥(あかげら)も池に映れり梅雨木立 水原秋桜子 |
また、若山牧水はこう歌っています。
立枯の木木しらじらと立つところ たまたまにしてきつつきの飛ぶ |
牧水のみた「きつつき」は、おそらくアカゲラであったことでしょう。四国、九州の方には困難ですが、それ以外の本州、北海道にお住まいの方であれば、疎林帯で、比較的樹表面のざらついた木の幹、それもかなり上の方を注意深く探してみてください。木の葉が落ちたこの時期が最適です。重なる枯れ木の淡彩色の世界に、ひときわ目立つ赤を誇る「アカゲラ」を見つけることができるかもしれません。