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第33回 2005/03/01
「裏方」、「オーケストラの職人たち」
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書名:裏方 物言わぬ主役たち
著者:木村公一
出版社:角川書店
出版年月日:2004年10月30日
ISBN:4−04−883905−5
価格:1,575円(税込)
http://www.kadokawa.co.jp/book/
bk_search.php?pcd=200402000112


書名:オーケストラの職人たち
著者:岩城宏之
出版社:文春文庫
出版年月日:2005年2月10日
ISBN:4−16−727106−0
価格:1,600円(税込)
http://w1.webarchitect.jp/spider/detail.php?asin=4163581006

今回は、全然別の世界の「裏方」を取り扱った著作をご紹介しましょう。また、この裏方を扱う視点もまったく異なりますので、この2作を読み比べてみますと、意外と見えていなかった世界に光を当てることができるかもしれません。

今日はもう3月1日。スポーツ紙は「球春」として日本プロ野球の今シリーズの行方を、やっと始まったばかりの2、3のオープン戦から占おうと紙面をにぎわしています。特に昨年は、2リーグ制の崩壊、1リーグ制への移行論議から端を発した、日本プロ野球開始以来半世紀を越えた歴史上、初めての選手によるストライキという「異常事態」を迎えたわけですから、プレスをはじめとした関係者自身の関心が高まるのもやむを得ません。

結果的に、セントラルリーグの球団経営は、新人の獲得方法に「不備」のあった2、3の球団トップの交代以外には全球団現状維持。他方で、パシフィックリーグ。球団経営に支障をきたし、昨年の大混乱の震源となった2球団の合併問題は、実は当該球団以外にも経営に支障をきたしているその他の球団の存在も明るみにでることによって、大幅な経営組織変更が実施されました。新たに球団経営に加わったもの2チーム、再編したもの1チームと、6球団のうち半分が「刷新」されました。この刷新されたパ・リーグと、何もしなかった(する必要のなかった?)セ・リーグの交流試合を公式戦に組み込むことが、全体としては「新しい」試みともいえるのでしょう。

興行スポーツは、何であれ、非日常的な興奮度を、それも超人的スポーツ技術水準の中で、いかに喚起することができるのかに大きな成功の鍵が潜んでいます。昨年度の野球選手会のストライキが、2リーグ、合計12球団の維持ということだけに終始した感があったのは残念なことでした。経営的に破綻をきたした球団がパ・リーグの半数にも上った事実の原因は、結局議論されることがなかったようです。

翻って、この『裏方 物言わぬ主役たち』は多くの示唆に富みます。表舞台を支える幾多の縁の下の力持ちがなければ幕は開かないことを知らない人はいません。その縁の下の力持ちの表舞台の支え方をよく見るとき、その舞台がより鮮明に浮かび上がるだけでなく、その舞台がつまらなくなった時、どうすればそれを打開できるのか多くのヒントを与えてくれることにもつながってくるように思えます。

さて、野球界のオブザーバーからの視点『裏方』に対して、クラシック音楽会の表舞台に立つ著名な指揮者の視点から音楽会を扱ったものが『オーケストラの職人たち』。軽妙洒脱な語り口は、高尚な(というものはないが)古典落語を聴いているかのように、きわめて魅力的。楽器の専門搬送業者、モギリ屋さん、などなど。

また、著者、岩城宏之さんは裏方にとどまらず、日本におけるクラシック音楽の歴史も判りやすく概括されています。日本フィルハーモニーと新日本フィルハーモニーの歴史的関係は簡明にして的確であるように読みうけられる。また、海外も含めた演奏者ユニオンの存在とそのかたくなさについては無学を恥じるところ多しでした。

レッスン8(第1章から12章までの全体を、著者は楽しくレッスン1からレッスン12までと表記している)に至って、「クラシック」を定義すると大上段に振りかぶる。これは著者がこのように意図したというより、読者の核心を衝いた「クラシック音楽って何だ」という、一面否定的な疑問への、筆者の経験的回答ともなっています。他のどこを読まなくても、ここだけでもとお勧めする味わい深い一章です。この点での解説は差し控えますが、岩城さんの次の言葉は、この著作全体の中で最も素敵な表現に思われます。

「クラシック嫌いの人は、『わからない』なんてゴマカさずに、理屈もこねないで、おおらかに『嫌いだ』と言ってほしい。音楽や絵画に『わかる』『わからない』という言葉を使う人種は、世界で日本人だけである。」

この2著作が取り扱っているのは、業界は違えどプロフェッショナルな世界。表をつかさどる人に勝らぬほどに裏方の重要性が問われる世界。それぞれに万全とはいいがたい現状の打破には、裏方を裏方としてではなく同じ共同体の等しく義務と責任を持つものとして内部の相互意見の交流が、それぞれに図られるべき地点に到達しているかのように見えるのですが。