第31回 2005/01/01 |
衝撃の古代アマゾン文明 |
書名:衝撃の古代アマゾン文明 著者:実松克義 出版社:講談社 出版年月日:2004年8月10日 ISBN:4−06−212462−9 価格:2,100円(税込) http://shop.kodansha.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2124629 既存の、これまで常識とされてきた知識がまたひとつ新しく、「衝撃的に」訂正されようとしています。まだまだ私たちが知らないこと、これまでの常識を改めなければいけないことがどれくらい広い範囲で、またより深いところに存在しているのかを教えてくれます。 ブラジルの河口都市、ベレンを経て大西洋に注ぐ、世界最大級の大河、アマゾン川。世界全体の淡水の20%を確保する水量(毎秒18万トン)、日本国土の20倍に及ぶ流域面積(750万km2)という数字は、比べるものがないほど飛びぬけた世界一。長さは、ナイル川(6,695km)に次いで世界二位とはされているものの、源流認定の変更によってはこれを上回る可能性さえ残しています。 この偉大なるアマゾンの抱く生物生態系の膨大さはまた比肩すべき地域がないようです。この著者によれば、推定樹木種4万以上、そのうち固有種が3万(75%)。草本類、コケ類、シダ類、ラン類を加えると想像さえ不能な数値に上る。確認された哺乳類427種、そのうち173種が固有種(40%)。鳥類1,294種、そのうち260種が固有種(20%)。爬虫類427種、そのうち固有種216種(50%)。両生類427種、そのうち固有種374種(87%)。昆虫にいたっては1,000万から1,500万種に及ぶと推測される。生息する魚類は3,000種を下回らないとされている。そして今日なお、研究者が日々新たな種を動植物の各分野で発見している。間違いなく、世界一の、途方もない自然の大きさを見せているのがアマゾン川であることは間違いないようです。 広大な熱帯雨林を擁し、様々な動植物を育む大自然の表現、アマゾン。雨季、乾季の両極端に別れる環境。密林に自然とともに生活する原住民。こうしたアマゾンに対し、これまで多くの学者がそこに人類文明の萌芽を感じ取ることはなかったようです。 しかし、偏見を持たない研究の徒の執念は、アマゾン上流、ボリビアのモホス大平原に、従来の常識を覆す人類文明のまったく新しい形成を発見します。筆者はこれを古代モホス文明、もしくは古代アマゾン文明とよんでいます。25万km2に及ぶ広大な湿地帯(ちなみにわが日本の本州の面積は24万km2)を独特の灌漑設備(テラプレン)で管理し、優れた排水効果をもつ耕作構造を生み出し、特殊植物(タロペ)を用いることによって水質の改善と土壌の改良と高能率収穫を実現していった。雨季には、ヒトを含む全生態の生活の場となったと推測される小高いプレーン、ロマを作り、乾季対策に作られたと思われる、多くの正方形の灌漑用水池。壮大な規模での「自然の大改造」が行われたのです。その起源は、最終氷期の終わり、今日から1万年前に遡るとさえ推測されています。 ナイル川周辺のエジプト文明、チグリス・ユーフラテス川周辺のメソポタミア文明、黄河周辺の黄河文明、インダス川周辺のインダス文明が従来人類発祥の四大文明と呼ばれてきました。しかしここ数年の間に、長江周辺の独自稲作文明が、黄河文明の成立した時代を遡って成立していたことが実証されつつあります(『長江文明の曙』梅原猛、厳文明、樋口隆康著、角川書店、2,200円、ISBN:4−04−522901−9)。そして南アメリカ大陸の「処女地」と呼ばれてきた大自然の奥地から、これまですべての文明を数千年遡る新たな文明が燭光を浴びつつあるのです。 著者は、古代モホス文明の解明にとどまることなく、アメリカの原住民の起源に思いをはせます。この分野でも、従来の説、モンゴロイドが欧州を北まわりのルートで、凍結したベーリング海峡を経由して、北米から南米へと到達したという説が、遺跡、石器の年代判別や、遺伝子分析の新たな方式によって既に破産している状況を説明してくれます。(このルートでは、常に北米の遺跡や石器の方が南米より古くなければならない。しかし逆である。また、DNAに欧州系モンゴロイドとの共通性はなく、むしろアジア系モンゴロイドの兆候を示すものがある) 最後に、著者の古代文明への熱意や造詣には深く感じ入るものがありましたが、最後までアメリカ両大陸を、新大陸と呼称することには違和感を覚えました。欧州の人々が、17世紀以降大挙して北米を目指したときの、アメリカ大陸を指す造語が新大陸であったかと記憶しています。この言葉には、それ以前の先住民族を尊敬する念が感じられません。欧州人が見つける以前からこの大陸は存在し、そこには人々が生活していたのですから、研究上「新大陸」と呼称すべきいわれは何もないと思われるのですが。いずれにせよ、一読をお奨めします。
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