北海道以外の国内では、旅鳥として分類されるノゴマをご紹介しましょう。繁殖地は、ユーラシア大陸東北部で広範囲に、国内では北海道でだけ確認されています(例外的に、岩手県早池峰山での繁殖があるようです)。おそらく繁殖地が広くシベリア地方であることから、英名でSiberianと付けられているものと思われます。他方、越冬地は東南アジア。東北地方以南の国内では、シベリア(もしくは北海道)と東南アジアとの間の渡りの途上、春と秋だけに旅鳥として比較的短い期間訪れます。ですから、野鳥に興味のあるバーダー以外には、あまり観察の機会のない、なじみの薄い野鳥がこのノゴマです。英名、Rubythroatそのままに、喉もとの実に目立つ赤色が特徴で一度見たらとても印象深い野鳥でもあります。このことから、俗称で、ノドアカとかヒノマルと呼ばれてもいます。ただこの喉もとの赤さはオスだけで、メスは、一番下の2枚の画像で確認いただけますが、際立った色彩を喉元に見ることはできません。
ノゴマはまたオスの囀りが綺麗なことでも有名で、「日本の野鳥590」(山と渓谷社)では、「よくとおる大きな声で鳴く」と紹介されています。残念ながら、私は繁殖期のノゴマをシベリアはもちろん北海道でも観察する機会を得ていませんのでその声の素晴らしさは、喉もとの赤さから憶測してさぞかし絶品であろうかと想像するばかりです。ノゴマの学名(種小名)のcalliopeはギリシャ神話にでてくる文芸の女神、「カリオペー」に由来し、ここではノゴマの囀りの素晴らしさが特徴として捉えられたようです。ますます、北海道で囀りを聞きたくなります。
大きさはスズメよりちょっと大きめの16㎝。オスの赤い喉以外に、眉線は白くそれが長く伸びています。またこの白い眉線に呼応したかのように嘴下部から眼の下に沿って白い線が顎線状に目立ちます。この眼を挟む上下の白いラインは、正面から見ますとX線状に見えます。下左側の画像で確認ください。また、この白いラインは雌雄ともにくっきりとでています。
国内では、安土桃山時代にはノゴドリと呼ばれ、漢字には喉紅鳥とあてられています。「鳥名の由来辞典」によりますと、「のどが目立つので、『のどことり』が“ノゴドリ”になったのかもしれない」と記載されております。これが江戸時代になって、“のご” “のごま”と呼ばれるようになったようです。由来辞典では江戸時代初期の文献で(おそらく大和本草)「大きさこまに大ぶり 毛色うぐひすに似たり 咽にくれなゐの毛あり 其いろ鳥類になき見事なる赤色なり」を紹介し、「“のご”が“こまどり”に似ているので“のごま”と呼ばれるようになったのかもしれない」と憶測しています。やはり昔からオスの真紅の喉は注目されてきたようです。他方で、最近のウキペディアでは、「野(原野)に生息するコマドリの意」と説明されており、「由来辞典」とほぼ同じ見解のようです。
上の2枚はメスです。全体としては地味な褐色ですが、眼の上下の明確な2本の白線がなによりの区別点で他の野鳥と見間違える可能性はなさそうです。この個体の喉は白いのですが、まれに小さな面積ではあれ赤が出るメスもいるようです。餌は主として動物食(昆虫食)といわれています。地上に出てきた昆虫の幼虫を捕えるためでしょう、よく地上をホッピング歩行する姿がを観察できます。
春と秋のわずかな時期にしか観察できない野鳥ですが、特にオスに出会うことができたらとても幸運に恵まれたと考えてよい野鳥です。今回ご紹介した画像は、オスは撮影者の住む埼玉県内(川島町)で、メスは東京都葛飾臨海公園でいずれも秋に撮影したものです(春のノゴマには会えておりません)。将来ノゴマの囀る姿を観察できる機会がありましたら、このページを改訂したいと願っております。
注)写真は、画像上をクリックすると拡大できます。