ヒタキと名前の付く、たがいによく似た三種類、サメビタキ、コサメビタキ、エゾビタキのなかでは、一番大きいのがこのエゾビタキです。いずれもスズメほどで、三種類が一緒にいることはまずありませんので、大きさは区別の役にはあまりたちませんが。繁殖は、シベリア南部、サハリン、カムチャッカ半島南部といわれ、他の2種類よりも地域がかなり狭いようです。また、越冬地はフィリピン、セレベス、ニューギニアの島々に限定されているようです。国内ではその渡りの途上に立ち寄る旅鳥(他の2種は夏鳥)。残念ながら春観察できたことがありません。これは私だけでなく、図鑑などでも秋の方が個体数が多いと紹介されています。秋の渡りは繁殖を終えて、若鳥も含めての渡りとなりますので、繁殖地に近い日本列島でより長い越冬地への旅を準備しているのでしょう。それに対して、春は、遠くフィリピン諸島などから飛翔してくる成鳥ばかりなので、一気に繁殖地までたどり着くか、また国内での停止時間も短いために観察個体数が少ないのかもしれません。日本の鳥550(文一総合出版)では、観察期間として春は5月だけ、秋は9月から11月初旬までがマークされています。
三種類の類似したヒタキの仲間の中では、胸部にはっきりした褐色の縦斑が入るのが特徴です。コサメビタキの腹部はほぼ真っ白で、サメビタキの腹部にはぼんやりとした模様状の斑が入るにすぎません。下左の画像で確認できると思います。また、タイトル写真で確認いただけるように、翼上部の大雨覆先端と三列風切の外縁にはっきりとした白線が入るのも他の二種類との区別点になります。
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以前ご紹介したコサメビタキとサメビタキが国内の本州以北でも繁殖するのに対して、このエゾビタキは国内での繁殖はしないようで、北方四島以北、サハリンやカムチャッカ南部での繁殖とされています。北方四島がいわゆる蝦夷地であることが、この鳥の名前に由来しているのではないかと思われます。
国内では、渡りの途上の観察となりますが、梢や枯れ木の先端部にとまり、飛び交う昆虫を見つけるとさっと飛び立ち捕捉します。バーダーにとっては、観察しやすい場所にいてくれるわけです。上右側の写真が、そのフライキャッチの様子で、嘴の先端に何らかの昆虫がケシ粒の様にいることが分かります。昆虫を捕捉するのですから動物食であることは間違いないのですが、木の実などの植物も餌とします。その意味では雑食性ですが、餌の主体は昆虫などの小動物の様です。下左は、若いエゾビタキがミズキの実を咥えているところです。まだ上手にフライキャッチできない巣立ちした若鳥は、親から餌をもらえなくなるとまずは確保しやすい植物の実を食べることから始めるのでしょう。
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上の2枚の画像は、いずれも若鳥です。成鳥と違って、頭部と、翼上部に多くの白斑が入っています。この白斑が、タイトル写真の様に綺麗にまとまって来ると成鳥となった証です。秋の初めにこうした若鳥を含むエゾビタキの群れがやって来ますと、今年の北方での繁殖が無事に行われたのだといささかうれしい気分にひたることができます。
秋の渡りの時期には、若鳥を連れての移動ですからミズキの実のなりそうな場所を中心に観察できるのですが、まだ木の実のない、成鳥だけの移動となる春、どこでこのエゾビタキに会えるのでしょうか。新年を迎え、今年の春こそはエゾビタキの春の姿を観察したいものだと期待しているのです。
注)写真は、画像上をクリックすると拡大できます。