シジュウカラの仲間の中ではもっとも小さい鳥、それがヒガラです。スズメやシジュウカラ(14㎝)より一回り小さく11㎝しかありません。専ら森や林、それも針葉樹林や落葉樹との混交林を好み、開けた草原や湿原、河原、海辺で見かけることはありません。シジュウカラが住む場所をそれほど限定せず、またあえて樹林帯の好みもあまりないのとは対照的です。世界的には、日本列島はもちろん、朝鮮半島を含むユーラシア東部からスカンジナビア半島、イベリア半島にいたるまでユーラシアの全域と北部アフリカ大陸に生息しています。
ヒガラの語源として、日本野鳥の会の創設者の一人、中西悟堂氏の説だといわれるものがあります。ヒガラの鳴き声「ツツピン」を「ヒン」と聞きなして、ヒント鳴くカラ類と呼ばれていたものが、ヒガラに転化したとするものです。私には、ヒガラの声がツツピンともヒンとも聞こえませんので、何ともいいかねます。シジュウカラは様々な鳴き方をしますが、その鳴き方の一つがヒガラに似ていることも事実です。ただ、シジュウカラに比べてヒガラの囀りはせわしなく、より詰まったような鳴き方です。またシジュウカラは、樹木のどこででも囀りますが、ヒガラは樹木の一番高い所で囀ることが多いように観察しております。
国内のカラ類には珍しく、よく見るとヒガラには冠羽があります。タイトル写真(群馬県渋川市伊香保森林公園)では短い冠羽がねていますが、下の写真(左:群馬県松井田町小根山公園、右:埼玉県吉見町八丁湖公園)をご覧ください。頭頂部の羽毛が上の方に跳ねているのが分かります。
ヒガラは、シジュウカラと似ているとよく言われます。実際に一緒にいるとそうでもないのですが、単独で見ると紛らわしいことは事実です。どちらの種類も、過眼線より上と顎から頸もとが黒く、眼の下の頬に当たる部分を取り囲んでいます。シジュウカラは背中に緑味を帯びた羽根がありますが、ヒガラにはそれはなく、背中は青味を帯びた灰色です。また、嘴下部から頸下にかけての黒い模様が頸もとで止まっています。シジュウカラはその黒い斑がそのまま下腹部まで伸び、ネクタイ状になっています。下右側の写真では、まさにチョウネクタイと呼ばれることがうなずけます。更にもう一点の違いは後頭部です。上、右の写真をご覧ください。頭部中央が頭央部から後頭部にかけて白く帯が入っています。シジュウカラにはこの白い帯がありません。
シジュウカラの仲間の中で、最もヒトになつき易いのがヤマガラですが、このヒガラやよく似たコガラもなつきこそしませんがあまり人を恐れることは少ないようで、人工の餌場や水飲み場によく現れます。タイトル写真は、公園のヒトの水飲み場に、その下左の写真は公園の管理人が準備した水場に寄ってきたものです。また他のカラ類と同様に長い距離を季節的に移動する「渡り」はしません。繁殖は亜高山帯の山間部で行い、山が雪に覆われる頃までには平地に移動してきます。
他のカラ類同様、餌は昆虫が主だったものですが、木の実も食べる雑食性です。上左(苫小牧市北大演習林)も、右(長野県蓼科高原)も餌を探している最中のヒガラですが、比較的餌を確保しやすい樹木の外側で採餌することが多いといわれています。ただそこは天敵からもねらわれやすく、小鳥を餌とする猛禽の山間部での最大の犠牲者がヒガラだともいわれています。ヒガラはまた採集した餌を貯蔵するともいわれていますが、残念ながらその現場を観察できておりません。
採餌活動は大変活発で、素早い動きが止まることなく続きます。左上のヒガラの胸部、腹部は黄色く染まっていますが、これはこの木の側にあったネコヤナギの花蜜をなめた際に付いた花粉なのです。ウラル山脈を越えた欧州側に生息するシジュウカラは、国内や東アジアのシジュウカラと異なり、腹部が黄色いのですが、最初にこの個体を見た時には、北海道に生息するヒガラは欧州のシジュウカラと同様で、腹部が黄色い亜種なのかとぬかよろこびしてしまいました。
ヒガラは夏の季語。
松島の松をこぼるる日雀かな 成田千空
確かにヒガラは針葉樹がお好みですし、マツボックリの中から虫を器用に取り出して食べることもします。松の枝先に出入りして餌を探すヒガラがそこにいるようです。
日雀鳴くひねもす木曽の青の中 矢島渚男
木曽の山中の青、スギの若い濃い青でしょうか。姿の見えないヒガラの鳴き声の中でたたずむ人の姿が見えるようです。
山で繁殖を終えたヒガラ達が、越冬のために平地に降りて来始める季節となりました。シジュウカラやコゲラなどと混成を組み移動することもあるヒガラです。近所の公園の枝先にいるかもしれませんよ。
(注)写真は、画像上をクリックすると拡大できます。