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ホーム/コラム/徒然野鳥記/第55回ヤマガラ


第55回 2006/06/01
ヤマガラ


(53)ヤマガラ「スズメ目シジュウカラ科」yamagara1_300
    英名:Varied Tit
    学名:Parus varius
    漢字表記:山雀
    大きさ:14cm

シジュウカラについで比較的よく見かけることができる、小柄な留鳥、ヤマガラをご紹介しましょう。シジュウカラよりもやや大きく、シジュウカラが比較的平野部の林に住むのにたいして、ヤマガラは幾分それよりも山間部よりに住んでいます。

何よりも顔の色彩バランスに特徴があり、他の鳥と見間違えることはまずないでしょう。眼の回りから後頭部にかけて黒、そして嘴下部(喉部分)から後頭部にかけても黒く、その中間部分つまり嘴の上部から後頭部にかけて非常に淡い、一見白っぽく見える褐色です。顔を真横から見ますと、頬の白っぽい部分を挟んで上下が黒いサンドイッチ状の色彩バランスです。面白いことに、黒い頭頂部には、モヒカン状に淡褐色の班が入っています。下の写真をご覧下さい。

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翼、尾は青みを帯びた灰色、またご覧のように腹部はきれいな赤褐色です。森の中をせわしなく飛び交うスズメ程度の大きさの野鳥で、この鮮やかな褐色がちらりとでも見えれば、ヤマガラに間違いないでしょう。

シジュウカラとは異なり、ヤマガラは日本全国と朝鮮半島南部、そして台湾という東アジアにしか生息しません(シジュウカラは広くユーラシア大陸に分布しています)。東部アジア原産といえる野鳥です。さて、雀とかいて「カラ」もしくは「ガラ」と付くシジュウカラ科の野鳥は、他に、「コガラ」、「ヒガラ」、「ハシブトガラ」などがいますが、これは「鳥名の由来辞典」(柏書房)、「鳥の名前」(東京書籍)では、「小さい鳥一般の呼称」ではないかとされています。しかし、「名語記」では次のように説明されています。

「鳥のやまがら、如何。山にすめば山歟。からは、かるらやの反。小鳥はおほかれどもしとやかなるもあるに、これは軽々に、はたらけば、山かるを山からといへる歟」

つまり、ヤマガラのヤマは山に住むことから、また「ガラ」とは、軽々しく動くことが転じて「カラ」、さらにそれが語尾として濁音化し、「ガラ」と名付けられたと説明しています。シジュウカラ、ヒガラ、コガラ、そしてこのヤマガラと、全てすばしこい動作を見せることから、なるほどとうなづける説明で、こちらのほうがより正しいのではないでしょうか。

このヤマガラの存在感を宮沢賢治は、「風の又三郎」の中でこう表現しています。

「たったいままで教室にゐたあの変な子が影もかたちもないのです。みんなもまるでせっかく友達になった子うまが遠くへやられたやう、せっかく捕った山雀に遁(に)げられたやうに思いました」

いつの頃からでしょうか、ヤマガラは、鳴き声を楽しんだり、神社・仏閣の周りの夜店や境内で、おみくじを引く器用な、「わざわざ捕って」くる、飼い鳥として扱われてきたようです。私が最後に「おみくじ引き」のヤマガラを田舎の境内で見たのは、昭和20年代最後のほうだったでしょうか。こうして古来ヒトとの接点の多いヤマガラは、和歌にも、俳句(季語としては、夏もしくは秋)にも多く歌われています。

 
松の葉のしげみにあかくい入日さし松かさに似て山雀の啼く  若山牧水
山雀や榧の老木に寝にもとる  与謝野蕪村 (秋)
山雀に小さき鐘のかかりけり  高浜虚子 (秋)
山雀の輪抜しながら渡りけり  小林一茶 (夏)
人を見て山雀鳴くや籠の中   松根東洋城 (夏)

さて、最後になぜヤマガラはおみくじを引くような「芸達者」であるのでしょうか。その答えは、動物行動学者の小山幸子さんが、「ヤマガラの芸 文化史と行動学の視点から」(法政大学出版局 1999年)の中で明らかにしています。ぜひお読みになられてください。お勧めの一書です。

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注:写真は、画像上をクリックすると拡大します。