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第133回 2012/12/06
マガン
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マガン

132)マガン 「カモ目カモ科マガン属」

    英 名:Greater white-fronted goose
    学 名:Aner albifronsa
    漢字名:真雁
    大きさ:72cm

日本国内に飛来するガンの仲間(マガン属)は、今回ご紹介するマガン以外に、ヒシクイ、カリガネ、サカツラガン、ハクガンなどがいます。世界的に最も数が多いといわれているのは北米を中心としたハクガンですが、国内への飛来は新潟県などに限定され、100羽を超えるとは思えません。亜種オオヒシクイを含むヒシクイは小さい群れを作って毎冬、限定された地域(たとえば霞ヶ浦江戸崎地区)で観察されていますが、国内すべての飛来数が数百羽に上ることは考えられません。カリガネとサカツラガンは国内ではまさに希少飛来種といえます。
それらに比較しますと、マガンに飛来数は5万羽もしくはそれ以上に及ぶといわれています。その意味で、日本のガンといえばマガンを指すといっても間違いではないといえます。江戸時代には、このマガンの飛来しない地域をカウントすることができるほど日本全国に来ていたといわれています。銃による狩猟により一時期激減したといわれていますが、1971年の天然記念物指定が功をそうしたのか、1980年代以降宮城県伊豆沼を中心に飛来数が増大、また、1990年から2000年にかけて伊豆沼以外の地域での恒常的な越冬が確認されて来ています。そこからマガン自体の生息数がかなり増えてきているのではと憶測されています。

英名の通り、嘴基部が大きく白斑で覆われているのが特徴です。日本にやってくるマガンは、カムチャッカ半島基部以北の北極圏で繁殖しているといわれています。森鴎外の「雁」、水上勉の「雁の寺」などのように近年の著名な小説のタイトルにも取り上げられている、私たちの生活にも文化的な匂いとともに密着している野鳥です。

ガンとカモの違いは何か、といった質問を受けることがあります。ガンは、このマガン属を含めて全てカモ目カモ科に属しますので分類的には大変近似的な存在であることは間違いありません。ワシとタカ、フクロウとミミズクの関係に似ていますが、ガン(Goose)とカモ(Duck)には、何点かの明確な違いがあります。まず平均してカモよりもガンは大きいこと(カリガネのように比較的小さいガン<58cm>もいますが)。また、カモには雑食性の種が結構いますが、ガンはほとんど植物食であることもあげられます。さらに決定的には、カモは、カルガモなどの例外を除いて雌雄で羽の色彩や大きさが異なるのに対して、ガンは雌雄の違いが外見上ありません。

さらに興味深いことは、換羽の回数の違いが上げられます。カモが年に2回換羽するのに対して、ガンは年1回だけの換羽です。ガンは大体8月に換羽をはじめ、越冬地へ飛び立つ秋には換羽が完了しています。カモの換羽は一度にかなりの羽根を落とし飛べなくなるほどまでになるのに対して、ガンは数枚単位で時間をかけて換羽すると言われています。ちなみに、大型のツルや猛禽類の換羽は2年に一度といわれています。

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成鳥マガンは、頭部から首にかけて暗褐色で、尾の部分に行くほど黒さが増します。また、腹部には黒い横斑が入ります。写真左が成鳥です。それに比べますと右側の幼鳥は、嘴基部の白い部分はほとんどないかわずかで、成鳥ほど背中から尾にかけての部分が黒くならず一様に褐色で、腹部に黒い横斑がありません。

滝廉太郎作曲で有名な「荒城の月」の詩(土井晩翠)に、「秋陣営の霜の色。鳴きゆく雁の数見せて」と歌われるほど次々と飛翔してくるマガンは日本古来よりの秋の風物詩だったようです。秋と関連付けてのマガンは、伊勢物語にも歌われています。

「雁なきて菊の花さく秋はあれど春の海辺にすみよしの浜」

「雁」という字は、ガンともカリとも読まれます。どうもカリが語源であったかもしれません。万葉集にはこうあります。「あしひきの山飛びこゆる可里我ね(カリガネ)は都に行かば妹にあひて来ね」

また古今和歌集に、「春霞かすみていにしかりがねは今ぞ鳴くなる秋ぎりの上に」とあります。また、源氏物語、須磨の巻に出てくる和歌です。「とこ世いでて旅の空なるかりがねもつらに後れぬ程ぞなぐさむ」

こうしてみますと、比較的カリガネの飛来数も多かった昔、カリガネとマガンは区別されず、一様にカリガネと呼ばれ、その意味でカリガネはマガンの語源で、カリが略語、そして江戸時代に入り、マガンとカリガネが別種として認められて今日に至っていると思われます。

秋にやってきて春に去るマガンは、季語としては春、秋、冬に対応しています。春の場合は、「残る雁」、「帰雁」、「いまわの雁」などが、冬の場合は、「冬の雁」や「寒雁(かんがん)」として使われ、それ以外には秋の季語として使われています。


病雁の夜寒に落て旅寝かな     芭蕉
雨となりぬ雁声昨夜低かりし    正岡子規
雁の声のしばらく空に道      高野素十
雁啼くやひとつ机に兄いもと    安住 敦

マガンにとどまらずガンの仲間は、基本的に家族単位で小群を編成します。雌雄(番)の関係はほぼ生涯継続されるとも言われています。しかし、繁殖時期に入るとそれまでの子供を追い払ってから繁殖活動に入りますので、この群れの構成は毎年変化していますが、群れから追放された若鳥たちは同じ仲間で群れを編成することも観察されています。また、雁行といわれる三角状の編成飛行は、先頭の羽の上下動による浮力を受け次列以降に位置する個体の飛行活動の負担を軽減するといわれ、先頭に位置する個体は時々代わることも観察されています。番の関係が長く続くこと、家族単位で行動すること、またこの小群を率いる際に親鳥がさまざまに異なった鳴き声やしぐさで群れを率いることから、古来人々に情を解する鳥として親しまれてきたのです。

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日本の代表的なガンは、マガンですが、中部ヨーロッパで冬見ることのできる代表的なガンは、キバシハイイロガン(Anser anser)です。上の写真右側(ドイツ、ハンブルグにて撮影)をご参照ください。マガンより一回り大きく、嘴に黄色味が強く、嘴基部の白斑はありません。日本に越冬するマガンが、人里よりはなれた場所を選択するのに対して、欧州では通常の居住地域であってもさほど気にする様子はありません。ヒトとの付き合いがより緊密なのかもしれません。

親鳥から追い払われた若いマガンは時として迷行し、他の種類のガンと一緒に行動したりすることも観察されます。ひょっとすると、近くの公園の池のガチョウに寄り添うかもしれません。注意深く観察して見てください。

 

(注)写真は、画像上をクリックすると拡大できます。

 



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