カモの仲間は、ほとんどが冬の鳥で、繁殖は北方です。また、オスの羽の模様はメスに比べて非常に派手で色彩に富んでいます。なかでもその典型は、オシドリと今回ご紹介するトモエガモです。絶滅危惧種Ⅱ類に分類されるほど生息数が少なくなり、トモエガモ飛来の情報には、バーダーが押し寄せる対象とさえなっています。
繁殖は、シベリア東部で、英名、Baikalはそこから付けられています。越冬地域は中国東部、朝鮮半島と日本、台湾で、東アジアのカモといえます。群れをつくって行動するカモで、飛翔する際の群れの長さが実に3㎞にも及んだといわれています。残念ながら、その性質ゆえにヒトが大量に狩猟しやすく、1970年代には絶滅を危惧されるほどに減少したといわれています。
タイトル写真でお分かりの通り頭部の緑色とアイボリー色の紋様が巴状に見えることから命名されたことは間違いないでしょう。メスは全身褐色系で地味。下左の写真でお分かりのように、嘴基部の白い丸斑が特徴で、他のカモ類のメスとの見分けは容易です。川、沼、湖などの淡水系を専らのえさ場とし、海水系で観察できたことはありません。図鑑の解説によると、食性は植物性の餌が多い雑食性とあります。これまで観たところでは、いわゆるドングリなどのカシ類の実をこのんで食べていました(これはオシドリでも同様です)。
タイトルの写真でお分かりのように、オスには、嘴基部から眼の上を経由して後頭部まで伸びる白いラインがあります。また首周りにも白いラインがあります。この白い2本のラインが、後頭部でどうなっているかといえば、下の写真をご覧ください。上の白いラインは後頭部で連結しています。他方頸周りの白いラインは後頭部中央に向けて次第に薄くなっているのが分かります。遠くから見ると、英語のエックス(X)の文字のようにさえ見えます。
トモエガモの古名は、味鴨(あち”またはあじ)。俳句の季語としては冬ですが、残念ながらあじまたはあち”を用いた俳句を探せませんでした。万葉の時代には、かなり一般的なカモだったようです。
あち”の住む須佐の入江の荒磯松 我を待つ児らはただ一人のみ(よみびと知らず)
霜夜には松も葉風に冷じく すさの入江のあじの村鳥 望月長考
とち”そむる氷をいかにいとふらむ あち”群渡る諏訪のみづうみ 西行法師
どの歌も、トモエガモが群れていること、季節が冬であることを情緒的に表現しています。ところが、関東地方で私が観察できた最大の群れは、20羽程度(埼玉県所沢市)で、今回の写真の個体は、全て単独で越冬していたものです。まさに絶滅危惧種といえるでしょう。ただ日本海側、特に石川県には群れでの観察が可能だとする情報があります。是非関東地方にも、沢山の群れで越冬にやって来る日が遠くないことを祈るばかりです。
(注)写真は、画像上をクリックすると拡大できます。