海洋の野鳥、アジサシです。既に第11回でご紹介した、コアジサシは、春に国内にやって来て、夏の期間繁殖をします。そのコアジサシより一回り大きいこのアジサシは、例外を除いて、国内には春と秋に渡りの途中に立ち寄る旅鳥です。
アジサシは、非繁殖期にはアフリカ大陸からインド、東南アジア、オーストラリア、南アメリカ大陸の沿岸部、南半球に生息します。面白い事に繁殖期には、北極圏を除くユーラシア大陸、北アメリカ中部に移動、北半球の、決して沿岸部に限らない場所で繁殖活動をします(国内でも海のない群馬県での繁殖例も報告されています)。いずれにせよ、北半球と南半球を移動する長距離移動型の海洋性野鳥です。
空中を飛翔しながら、海面の魚を狙い、一直線に羽をすぼめて頭から海面に飛び込むのは、アジサシもコアジサシも同じです。ただアジサシの方がコアジサシよりも高い位置から飛び込んでいるように見受けられます。また、一回り大きいせいでしょう、コアジサシと同じ空間で飛翔している姿を比べますと、アジサシの方がより大きく旋回し、コアジサシが直線的なのに対してアジサシは曲線をなだらかに飛ぶという感じを受けます。下は、東京湾三番瀬の干潟上を飛翔するアジサシたちです。
下の写真の3羽のアジサシ(波崎港)ですが、左右が夏羽、中央部の羽を伸ばしている個体は冬羽です。御覧のように冬羽では、額が白く、また下面全体が白くなります。冬羽は一見幼羽と見間違えますが、幼鳥は背中や肩、三列風切羽に褐色味が入りますし、嘴基部に赤味があります。
全世界で44種類のアジサシの仲間がいるといわれています。その中でも、最大飛行距離約4万Kmを誇るのが下のキョクアジサシです。北極圏で繁殖し、7月になると南極大陸付近まで南下飛翔し、翌年5月には北極圏の繁殖地にもどるといわれています。生涯飛翔距離は、地球から月までの距離に匹敵するとさえいわれています。驚くべき飛翔能力です。昨年夏(2011年7月)神奈川県に迷い込んだキョクアジサシ(Sterna paradisaea, Arctic Tern)です。
下の左側は、茨城県波崎港でみかけた、ベニアジサシ(Sterena dougallii, Roseate Tern)。アジサシよりも嘴が長めで、嘴と脚の色が鮮やかな赤です。九十九里浜では、毎年少数の個体が観察されています。日本が生息の北限で、東南アジアからインド洋沿岸、オーストラリア大陸北部を生息圏としているようです。
上右のアジサシは、冬羽のハシブトアジサシ(Gelochelidon nilotica, Gull-billed Tern)で、2007年9月に東京湾三番瀬で偶然観察できたものです。日本に一番近い繁殖地は台湾、中国東部といわれていますが、関東地方で見かけることはベニアジサシ以上にまれといえます。
カモメ科に分類されていますが、カモメの仲間に比べると体つきは細くよりスマートで、飛翔速度も速く、飛翔距離もかなり長いのがアジサシの仲間です。国内では、以前ご紹介したコアジサシと今回のアジサシがもっとも観察しやすいのですが、ひょっとすると希少な南方からの珍客がその中にいる可能性は常にあります。よく観察されてみてはいかがでしょうか。
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