遥かオーストラリア、ニュージーランドから春になるとここ日本へ渡り、夏の間に営巣・育雛し、夏場を過ぎる頃また帰っていく、所謂「春告げ」の夏鳥です。私の日常的な観鳥地、見沼田圃にも今年は5月の連休中に、カッコウよりも一足早く訪れてくれました。ここ埼玉県では、熊谷市街の荒川の河川敷でも良く見かけることができます。
雌雄同色で、極めてスマートな体形をしたカモメの仲間。頭部を除き、遠くから見ると体全体が白っぽく見えますが、近寄ってよく見ると背中の部分は灰色。頭頂部から後頭部の黒い部分が、目の周りを横切る黒い過眼線と繋がりますが、額には白が残っています。体の大きさと、この額の部分によってアジサシと見分けることができます(アジサシは一回り大きな35cm、で額の部分も黒ですので、喉部を除く頭全体が黒く見えます)。嘴は全体が黄色、カモメに比べると細長く、これまたスマートで、先端は黒。因みにアジサシは、嘴全体が黒です。
この鳥の特徴は何と言っても、華麗なダイビングスタイルです。海岸、河川の水面上おおよそ3〜5メートル程度の空中を飛びながら、時として空中停止、所謂ホバリングし、餌を見つけるとその位置から垂直に、頭から水面に飛び込みます。この直角のジャンプインが、あたかも海中の鯵(アジ)を刺すようにも見られ、この名前がついたことと思われます。飛び込む姿は、なんとも綺麗なのですが、どうも餌を捕獲する確率はあまり高くないようで、10回のダイビングで、2、3回程度しか餌をくわえて舞い上がることはないようです。もっとも、埼玉県に来るコアジサシよりも、他の地方に行く個体の能力が回っていることは無きにしも非ずですが。したがって、短時間のうちに幾度も幾度も同じ場所で、見事なダイビングを楽しませてくれます。
空中を飛び回るとき、「キリッ、キリッ、キリッ」と、そう大きな声ではありませんがよく鳴きます。求愛行動として、雄が雌に餌を与える姿は、よく写真にも撮影されるところです。巣は作らず、地面の窪みに集団で直接営巣し、産卵、育雛します。河川敷の荒廃、ヒトの車による乱入により、個体数の減少が危惧され、環境庁により「絶滅危惧II種」に指定されています。
アジサシは、俳句上、夏の季語。
鯵刺の搏ったる嘴のあやまたず 水原秋櫻子 |
いかにも夏を思わせる、スマートなこの訪問者が、絶滅危惧から一日も早く除外されることを願っております。