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ホーム/コラム/徒然野鳥記/第110回オシドリ
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第110回 2011/01/01
オシドリ

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オシドリ(番)

108)オシドリ 「カモ目カモ科オシドリ属」
    英 名:Mandarin Duck
    学 名:Aix galericlata
    漢字名:鴛鴦
    大きさ:45 cm

お正月にちなんで、祝宴の席でとりあげられることの多いオシドリです。日本人のほとんどが知っている色彩豊かな(オスだけですが)カモの仲間です。西日本では冬鳥、中部以北関東地方では留鳥、東北地方では夏鳥です。山の森林部で繁殖し、越冬は雪の少ない平野部や南部に移動する行動パターンをとっているようです。他のカモ類の多くと異なり、毎冬越冬場所を決め、オシドリだけで群れをつくって越冬することが多く、カモの仲間が多種入れ乱れている場所で見かけることはまずありません。

中国(台湾含む)、朝鮮半島、カラフト、日本列島に生息する東アジアの固有種で、英名は、Mandarin Duck(直訳シナガモ)と付けられています(英国で自然繁殖しているオシドリは、アジアから移入されたものと判明しています)。このオシドリ、冒頭で述べましたように男女の契りの堅さと末長さを象徴するものとして、鴛鴦(えんおう)の契りなどと使われてきました(鴛はオス、鴦はメスを意味しています)。事実、番となったオシドリは、他の個体への攻撃も激しく、タイトルの写真のように並んで泳ぐ様子からは仲良く見えます。しかし、他のカモ類の番と比べて仲の良さにそれほどの差があるとは思えません。オスのこれほどまでのあでやかさがそういう錯覚を生んでいるように思われます。

また、多くの野鳥のように一夫一婦制ですが、繁殖期に入り、メスが大きな樹木の空洞などで抱卵に入るとオスは間もなく営巣場所を離れ、それ以降育雛に関わることはなくなり、番は解消されます。この番は、再び構成されることはあまりないと理解されています(井の頭公園の飼育観察では、飼育下であってっても全ての番がそのまま次の繁殖期に同じ組み合わせになるわけではないようです)。

古く奈良の時代から「をし」または「をしどり」と呼ばれ、「万葉集」や「日本書紀」にも詠われていると、「鳥名の由来辞典」(柏書房)では紹介しています。オシドリが他の野鳥と比べてあえて雌雄の仲がよく、永続性があるということは言えそうもありません。鴛鴦の契りと野鳥のオシドリとは分けて考えた方がよさそうです。

山川に鳥志(をし)ふたつ居て偶(たぐひ)よく偶(たぐ)へへる妹を誰か率(ゐ)にけむ(孝徳天皇記)

その「をし」の語源として、「由来辞典」では、「大言海」の「雌雄相愛(を)し」からだとする説を紹介しています。つまり既に「をし」自体が、オスとメスの番となった仲の良さを表現しているというのです。上の日本書紀の歌も、番の仲良くする様子を歌っています。1000年以上にわたって、よい意味で勘違いされているのですから、オシドリとしても満足でしょう。

面白いことに、オシドリは、カシやクヌギの実、ドングリが好物のようで、よく落ち葉で覆われた秋の林の地面にドングリを咥える姿を見かけます。また、高い木の穴を巣とするだけあって跳躍力に優れ、カシやクヌギの枝に直接飛び乗りまだ地面に落ちる以前のドングリを枝から直接採る姿も観察されています。

oshidoriosu1オシドリ・オス

 

オスのオシドリの一番の特徴は、タイトル写真で判るように、銀杏の葉のような形状の鮮やかな橙色の羽がからだの後ろの方でピンと上向いていることです。これは、文学的な表現では、思羽(おもいばね)と呼ばれていますが、実は鳥の羽の構造上では、三列風切羽の最内羽なのです。この部分がこれほど突出した野鳥を他に知りません。またそれ以外にも、嘴基部から頭頂部にかけて光沢を帯びた緑色の羽が、眼の周りと後部に伸びる白い部分に綺麗に縁どられています。頸の部分には、栗色の筋状の羽根がふさふさと生え、まるで豊かで柔らかい髭を想起させます。嘴は赤く、最先端部は白く光っています。国内で見る野鳥の中でこれほどカラフルな野鳥はまずいないのではないでしょうか。

 

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羽ばたきするオシドリ、メス

色彩豊かなオスに対して、メスは地味。腹部の眼の周りの白い部分を除き、後は褐色の濃淡の違いで全身を表現しています。この地味さの中で目立つアイリングとその後ろに伸びた白いラインが、とてもメスの力強さを感じさせるように思われます。

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一羽だけいた若いオシドリ

一昨年の冬、さいたま市の見沼田圃を流れる見沼代用水に、多くのカルガモと一緒にたった一羽だけいた、オシドリです。白いアイリングと後ろに伸びた白いラインからするとメスに見えます。ただよく嘴をご覧ください。嘴は赤く先端が白くなっています。実はこれは、オスのエクリプス状態(換羽期)なのです。これまで、オシドリのエクリプスを見かけたのはこの一度の経験だけです。

オシドリを歌った短歌は古来より多く、その一つです。

山川にひとりはなれて住む鴛鴦の こころしらるる波に上かな  西行法師

オシドリは冬の季語です。カラフルなオスのオシドリから、絵画的な世界が浮かんでくる句が多いようです。

古池のをしに雪降る夕かな      正岡子規

鴛(をしどり)や獺(をそ)の飛込む水古し 蕪村

月さして鴛鴦浮く池の水輪かな    藤田蛇笏

そしてちょっと趣の変わった句。

鴛鴦あはれ南京豆を争へる      富安 風生 

お正月にこの綺麗なオシドリを探すのも、今年の縁起の良さの始まりかもしれません。

(注)写真は、画面上をクリックすると拡大できます。

 



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