鹿児島県出水市に、全世界の生息数の半分にものぼる生息数が越冬する、マナヅルです。2010年12月11日の調査では、出水市で越冬するツルは、13,006羽。そのうち、ナベヅルが約1万2千羽(92%)、マナヅルが1千羽だと報告されています(8%:10羽未満の希少種は、クロヅル、カナダヅル、ナベクロヅル)。ナベヅルに比べて一回り以上大きく、眼の周りが赤いので一目で違いが分かります。出水市には、昨年度末の調査で報告された5種類以外にも過去、タンチョウやアネハヅルのようなツルの仲間がわずかな個体数ですが観察されています。タイトル写真は、親と一緒に採餌している若鳥の様子です。マナヅルは生後2,3年で性的な成熟を迎えるといわれています。
長い首の後ろ側から頭頂部にかけて白く、眼の周りが赤いため、上のタイトル写真でお分かりのように頸を立てるとよく目立ちます。実は目の周囲には羽毛がなく、赤い部分は皮膚の露出部です。また虹彩もオレンジ味のある赤です。頸の前から胸部、腹部、下腹部にかけては黒く、背中は青味を帯びた灰色です。朝日や夕日を浴びるとその部分が時として鮮明な青色に見えたりします。
繁殖地は、中国北東部からアムール、モンゴルといわれ、越冬は日本以外には、朝鮮半島、長江下流域だといわれています。既に20年にもなるでしょうか、韓国の板門店付近の国境の川を挟んだ共同警備区域で、ヒトの対立をよそ目にのんびりと餌を探すマナヅルを数羽見かけた記憶が鮮明です。
通常野鳥の耳(耳孔)は見えずらいのですが、マナヅルの場合には耳孔を覆う羽毛(耳毛)が灰色で、眼の周りの赤い部分の中で眼の後方下に変形の丸型をしています。飛翔している上の2枚の写真で、顔の部分をよくご覧になればお分かりになります。
さて、鹿児島県出水市荒崎地方に飛来するツルは、既に1921年(大正10年)から天然記念物法により保護を受け、1952年(昭和27年)には国の特別天然記念物「鹿児島県のツル及びその渡来地」として指定を受けてきました。地元の協力者と行政が一体となって保護した結果上で述べましたように1万羽を越える飛来数を数えるまでに至ったのです。
この間、一部の鳥類研究者の間から、越冬種の極度の一点集中化による危険性が指摘され続けて来ました。全世界のナベヅルの9割、マナヅルの5割がここに集中しますので、何よりも伝染性病原菌の蔓延による種の絶滅危機さえ起りえない事ではないと警告されてきたのです。残念ながら、越冬地の拡散化への努力は、今なお前途の道筋さえつかめていない状況ではないでしょうか。
昨年12月、ナベヅルに高病原性鳥インフルエンザ(H5N1型)が確認され、更にその後マナヅルでも陽性反応が確認されました。従来、鳥インフルエンザに感染したトリに対するヒトの対応は、殺傷処分です。世界的な希少種であり、天然記念物に指定されている出水のツルに対する殺傷処分の決断は下せないと思われます。後は、当面の拡散防止のための囲い込みと将来的な分散化の対策に直ちにとりかかるしかありません。H5N1型インフルエンザが確認され、殺傷できない以上、当面は給餌作業の継続による囲い込みしかないように思われます。その結果、大規模な数的な減少が見られたとしてもです。給餌を直ちにやめ、分散化を図ることは、今年に関しては鳥インフルエンザの拡散を結果する危惧が大きすぎるように思われます。
問題はさらに深刻で、この「天然記念物」指定地区には、養鶏が盛んであることです。養鶏産業と、天然記念物ツルの観光産業を同時に実現できてきたことは、ある意味まさに奇跡的でした。しかしあまりにも危険性に満ちています。
ここまで書いて、1月25日、ついに出水市内の養鶏場で鳥インフルエンザが確認され、数千場のニワトリが殺傷処分されたとの報道が入って来ました。来年度以降、ツルへの給餌を取りやめ数の分散化を図ること、これまで以上にツルの健康管理に監視を強化すること、そして養鶏産業関係者へは、行政的な保護のもと転業を促進すること、これらを今年決めなければ、希少種ツルと養鶏の双方にパンデミックの危険性を温存させることにならないでしょうか。鳥インフルエンザについては、「ケンイシワタの独り言」であらためて触れることにします。希少種マナヅルの行く末を心配しながら、ひとまず筆を置きます。
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