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ホーム/コラム/みだれ観照記/LPジャケット美術館

第61回 2007/8/1
LPジャケット美術館 クラシック名盤100選
61

書名:LPジャケット美術館 クラシック名盤100
著者:高橋敏郎
発行所:(株)新潮社
出版年月日:2007725
ISBN
9784106021602
価格:1300円(税別)
http://www.shinchosha.co.jp/book/602160/



この「観賞記」でご紹介してきた本になかで、最も発売日直後の一冊です。ほんの数日前に出版社から直接手元に届きました。と申しますのも、当社のホームページのコラムで「心に残るディスク100選」を執筆願っております、高橋敏郎さんの最新の著作で、出版元の新潮社から当社宛に出版の引き合いがあり、私が、著者高橋さんをご紹介させて頂きました。その関係で、執筆者から「進呈」いただきましたのが、この「LPジャケット美術館」なのです。

当社のホームページに執筆されたものを、昨年(2006年)1月に「20世紀の傑作LPレコード百選」として音楽出版社から出版されたものに次ぐ、高橋さんにとっては第2作目の、レコードに対する思い入れのほどをまとめた著作です(音楽関係の執筆活動は、音楽専門誌、オーディオ専門誌などで長く携わってこられたと聞き及んでいますが)。

高橋さんの経歴については、このコラムの「筆者紹介」でも、また著作のバックカバー部分にも記載されていますので、未だお読みになっていらっしゃらない方は、ご参照ください。収集したレコード5万枚、とさりげなく紹介されますが、それがいったいどれくらいのものかお分かりでしょうか。レコード盤は、さまざまな重量がありますが、ジャケットに入った状態で大体200グラムと考えられます。そうしますと、総重量10,000キログラム、つまり10トンに及びます。また平面上に敷き詰めたとしますと、一枚のLPが30cm四方として、0.09m2、その5万倍は、4,500m2、約1,360坪となります。更に、一枚のレコード入りジャケットの厚さは6ミリ程度ですから、それを縦に重ねますと、300メートル、東京近郊の高尾山に匹敵する高さになります。音楽性とは何の関係もないのですが、集めたLP5万枚の物理的なすごさを少しはイメージいただけますでしょうか。

ところで、アメリカで開発されたといわれる原初のレコード盤は、一分間に78回転する、いわゆるSP盤。それが1948年アメリカ人ピーター・ゴールドマークによって直径12インチ(30cm)の長時間収録可能なポリ塩化ビニール製のレコード盤が開発され、それ以前のものよりも長時間再生ができることから、Long playとよばれ、略してLPレコードもしくはLPディスクという呼称がされてきたといわれています。

筆者の「『ジャケット』とは何か」という文中の「コラム」(第2章の後、第3章の前)によれば、落下、破壊には強いがホコリに弱いポリ塩化ビニールでできたLP盤を守るためにできたのがジャケット(それ以前のSP盤は、ホコリには強かった)。当初は画一的、単純な印刷でしかなかったものが、次第に、デザイン志向性を強め、こうしてその仕事に関わるデザイナーは、「中身の音楽と徹底的に向き合い、いかに自身のイマジネーションを具体的にしていくか」という課題に取り組んでいく。「これは実に難しい仕事だが、そんな『音楽とヴィジュアルの対話』にもっともふさわしい場所こそ、たった30センチ四方のカンバス『ジャケット』だったのだ」と解説している。その意味で、著者は「ジャケット良ければ、すべて良しーこれこそ、我々が理想とするトータル・パッケージとしてのレコードであった」とこの著作の真意をさりげなく述べている。

さて、この「LPジャケット美術館」。ここに集められたLPレコードを入れるジャケットの写真がすばらしく美しい。しかしこの著作に紹介される100枚のLPレコードは、たんにその絵やデザインの美しさだけで選ばれたものではなく、そのジャケットがカバーするレコード盤に内在する音楽性のすばらしさとマッチしたもの、つまりレコード盤の音楽性に相応しいセンスを備えた美術品としてのジャケットとの関係で選択されたものなのです。音楽と美術の芸術的な統一性をもつLP盤100枚、これがこの「美術館」なのです。残念ながら20歳代まではレコード時代、30歳以降はCD時代を過ごしてきた私には、このような選択、推薦作業はとても不可能です。

日本に背を向けた(向けられた)天才画家、藤田嗣治の二つの作品(「シャルバンティエ・歌劇ルイーズ」と「モーツアルト・ピアノ協奏曲第9番、第23番」)、ジェームス・クックデザインの「マーラー・交響曲第9番」が私には最も印象に残ったのですが、皆さんはいかがでしょうか。まず写真を見る、そして音楽解説を読む、そうすればきっと聞いてみたくなること請け合いの魅力的な一冊です。

高橋さんは、前掲の「コラム、『ジャケット』とは何か」の中で、録音された中身の音楽性と、ジャケットの美術性の芸術的な統合性を持った「トータルパッケージとしてのレコード」という「永遠のテーマ」を、「現在のCD、あるいは次のメディアを通して、次世代へと受け継ぎ、発展させてもらいたいものだ」と強いメッセージを発しています。この本一冊を読むのにさほどの時間はかかりません。気に入ったものが発見できた後が大変。中古LPを探すか、CD版を探すか、ここから大変な作業が待ち受けていますが、音楽好きの方には、楽しい困難さではないでしょうか。