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第08回 2002/10/12
虫食う鳥、鳥食う虫
08

書名:虫食う鳥、鳥食う虫
著者:ギルバード・ワルドバウアー(Gilbert Waldbauer)
出版社:青土社
出版年月日:2001年10月15日初版
ISBN:4−7917−5915−X
価格:2,800円
http://www.populus.est.co.jp/asp/booksearch/
detail.asp?m_code=11956&s_key=314484&scode=3978

野鳥観察に人並みならぬ関心を抱いていた少年が、やがて大学(マサチューセッツ)で昆虫学を専攻し、その後イリノイ大学昆虫学科の教授を経て、「教える仕事から引退したとき、専門の生物学者と野鳥観察者その他のアマチュアの自然誌家、またそれ以外にも動物の相互関係に興味を持つ人たち全員をつなぐパイプ役になろうと決心し」、「専門的な生物学用語を極力避けて表現した」著作がこの本である。

原題は、『The Birder's Bug Book』つまり、「バーダーのための虫の本」である。翻訳者による表題、「虫食う鳥、鳥食う虫」は著作の内容の一部を端的に表現した魅力的なヘッドコピーではあるが、この本の趣旨は、虫と鳥との関係に留まることなく、地球上に生息する虫や鳥を含めた、動物と植物との有機的な連鎖と、そこへの人類の介在により、今日の危うくなった全生態系を描くことにあるように思われる。

地球上に生息する動物種は、現在知られたもので約120万種。そのうち実に75パーセントにものぼる90万種は昆虫であるという。人類にとって、未知の昆虫は数百万に上るであろうと憶測されている。その昆虫は、既知の25万種の植物と密接な関係を築いている。他方、その昆虫を餌とすることの多い、鳥は、それに比較するとわずか9千600種。まだ知られていない鳥は恐らく皆無であろうといわれている。

昆虫は、植物を餌とするだけに限らず、植物の授粉に寄与していることは広く知られた事実である。その生存の機能において、「虫なしでは諸大陸の生態系のほとんどが崩壊して、人間や鳥、そしてこれまで進化してきたほとんどの生物にとっても、はるかにすみにくい劣化した生態系に置き代わっただろうということが明らかで」ある。こうした、無数の昆虫、虫と、鳥との関係、それを支える植物との有機的連関が、簡明に判りやすく事例紹介されていく。

しかし、地球上に生物が誕生した時を零時とし、現在を24時として、人類の誕生がこの24時間の中でわずか1分前でしかないという観点から見た場合、その結果はいかなるものであろうかと筆者は問題を提起する。地球史上、過去5億年の間に5回、「無数の動植物種が化石記録から多少とも忽然と姿を消した。」おそらくは、巨大な爆発流星が地球と衝突したことによる、地球全体に影響を与えたほど大きな「物理的大災害」に起因した多くの地質学的な証拠が近年挙げられている。日本では、松井孝典・東大教授の研究は秀逸である。著名な地球三部作以外では、2000年に出版された『1万年目の「人間圏」』が随筆風なタッチで説得性に富み、一読をお薦めする。

しかし、「我々はいま第六の大量絶滅の初期段階を目の前にしている。規模の点ではこれまでの絶滅を上回るかもしれない。」と著者は自身以外の動物学者の言葉をも引用しながら警告する。問題は、その絶滅が、これまでの天変地異によるものではなく、「野生動物層のうち例外的に破滅的な一員の行動という、生態学的な災害によって起こされている。」つまりこの異常行動に奔走する「破滅的な一員」こそ、人類である。

近代の人為的な薬物、化学薬品の引き起こす環境汚染、その人類の生存に対する警告を発した、レーチェル・カーソンの「沈黙の春」(1962年)が対象とした現代というごく真近な時代に止まるものでなく、はるかそれ以前に種の絶滅は、人為的に開始されている。北米大陸に、およそ1万1千年前に「アメリカ原住民」が到着し、6千年前までにはこの大陸から大型動物(バイソン、マンモス、マストドン、オオナマケモノ等)は絶滅した。また、ここ1千年に限っても、例えば、ニュージーランドにポリネシア人であるマオリ族が最初に定住し始めてから、数百年のうちに「13種かそれを超える数のモアを狩猟して絶滅に追いやった。」

こうした人類による動物種の絶滅は、マダガスカル、オーストラリア、ハワイを含む太平洋上の島々で繰り広げられている。こうした人類による狩猟、屠殺行為による種の絶滅以上に、全地球規模での環境破壊が種の絶滅の速度を加速化させている。こうして、「動植物の種は、約15分間に1種ずつ地球上から永遠に姿を消している。」著者は、私たちにこう語りかけるのである。

人間の冒険のうち最大のものは、自己を知る知識の探求である。しかし我々は地球的な生命の綱目の一側面に過ぎないのだから、全ての生命の脈絡の中でしか、自分自身を理解することができない。種が失われ原生地が破壊されることは、我々の自分自身に対する視野を狭くし、ひいては我々自身を矮小にし、自分の精神を貧しいものにすることなのだ。