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第72回 2007/11/01
ムナグロ

ムナグロ
ムナグロ

(70)ムナグロ「チドリ目チドリ科ムナグロ属」
   英名:Pacific Golden Plover 
   学名:Pluvialis fulva

   漢字名:胸黒
   大きさ:24 cm

ムナグロ:シルエットとしては、以前ご紹介した「ダイゼン」に非常によく似た「ムナグロ」をご紹介しましょう。北極圏のシベリアや北米のツンドラ地帯で夏場に繁殖し、東南アジア、オーストラリア、ニュージーランド、南アメリカで越冬するこの鳥は、越冬に向かう秋、及び繁殖地に向かう春にわが国には立ち寄ります。典型的な旅鳥といえます。多くは、淡水系の湿地帯、水田、草原に降り立ちますが、河口の汽水域や干潟でも時として見かけることができます。ムナグロに良く似たダイゼンは、ムナグロより一回り大きく(29cm)、干潟、海岸、河口などの海水域を好むようです。

雌雄は同色。ダイゼンと同様、冬羽と夏羽ではかなり異なった色合いとなります。まず夏羽ですが、顔から下腹部にかけては真っ黒で、頭から背中全体に黄褐色と黒斑がまだら模様を構成しています。この背中の黄色い部分を指して、英名では Golden Plover と名付けたと思われます。実際、朝日、夕日に照らされるとまさに金色に輝いて見えます。ちなみに、ダイゼンの英名は、Grey Plover でやはり背中の色合いを種名に取り入れているようです。

和名の「ムナグロ」は、英名とは異なり、顔から胸、下腹部にかけての黒さに注目して付けられたのでしょう。この黒い下腹部とまだら模様の頭から背中全体の境界部分は、眉斑部分と連なり、白くなっています。上の写真は、次第に夏羽へと変わりつつある、春先に飛来した個体です。完全夏羽では、顔から下腹部にかけての黒模様がもっと黒味を増してきます。

他方、冬羽では、顔から胸にかけての、夏羽では真っ黒であった部分がなくなり、淡い黄褐色となり、横斑が入っています。また、頭部から背中のまだら模様も黒味が淡くなってきます。下の写真をご覧ください。3羽のムナグロ(うち1羽は飛翔中)のうち、一番左が夏羽、その右が冬羽の特徴を十分残し夏羽に換羽中の個体、一番右の飛んでいる個体が未だ冬羽のままの個体です。

ムナグロ

次の写真は、夏羽と冬羽のコントラストがはっきりと分かる写真です。こういう個体群に出会いますと、なんだかオスとメスのカップルのように見えますが、冒頭にも書きましたようにムナグロは雌雄同色で、季節的な換羽完了以前と以後を表しているに過ぎません。

ムナグロ

ダイゼンは、関東地方では谷津干潟で越冬することで有名ですが、関東、関西圏でムナグロが越冬しているという情報は聞いたことがありません。小さい個体数での越冬例は、小笠原諸島、南西諸島では観察されているようです。

ムナグロの古名は、「むなぐろしぎ」です。古くは、しぎの仲間と思われていたようです(現在ではチドリの仲間に分類されています)。この異名として、「あいぐろ」がありますが、胸の黒さを藍色に見立てたものでしょう。また、別の異名「うすずみむなぐろ」は、恐らく夏羽に換羽中のムナグロを刺したものではないかと思われます。さらに、「むぎわらしぎ」とは、英名と同じ観点で、夏羽の背中の色を麦藁に見立てたものでしょう。

シギとチドリの区別が明確ではなかったことからか、ムナグロは俳句の季語には設定されていません。今後の現代俳諧であえて季語設定するとすれば、春か秋でしょうか。また、和歌にも固有名詞では歌われてはいないようです。

平野部の静かな環境の田圃であれば、田植えの始まる直前の水を張ったばかりの水田か、稲刈り直後が、この「ムナグロ」を簡単に見る機会です。一見水田の色合いと交じり合い見落としがちですが、よく眼を凝らしてみてください。春、秋ともに夏羽と冬羽の入り混じった一群のムナグロに出会うことができるはずです。

 


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