ゴイサギ:誰でも、名前を聞いたことのある平野部の野鳥ゴイサギをご紹介しましょう。この鳥は、南米アメリカ、ユーラシア、アフリカ大陸の温帯から亜熱帯地域にかけて、ほぼ全世界的に生息しています。これまで調べた資料によりますと、どうもオーストラリア、ニュージーランドには観察記録がないようです。その意味では、南極大陸および豪州地域を除く全大陸に生息する野鳥といってよさそうです。
国内では、東北地方以南の平地に生息する留鳥といわれていますが、北海道でも観察記録があるようです。また南西諸島には、冬になると渡ってくる冬鳥となります。一部の個体群が冬季南下しているものと考えられています。英語の名前、Night Heron つまり夜のサギとあるように、基本的に夜行性といわれています。何度か見掛けましたが、夜間月明かりの下、ゆっくりと飛び、その際よく「グァー」とも「ゴァー」とも聞こえる声で鳴きます。このことから、別名「夜烏(ヨガラス)」とも呼ばれるようです。
しかし、日中でも容易に水辺で観察できますので、フクロウの仲間などのように採餌活動は夜にしか行わない、完全夜行性というよりも、夜のほうがより活発に採餌活動をする、不完全夜行性の野鳥と理解したほうがよさそうです。しかも、育雛期間中は、雛にえさを与える関係上、日中活発に採餌活動を行います。上の写真も、淡水池で正午近くに撮影したもので、目を凝らして餌を探している(待っている)ところです。
成鳥は、繁殖期を迎えますと、脚は黄色から鮮紅色に変化し、眼先は、ダイサギのように青緑色へと変わり、更に虹彩の色ももっと赤味が増すようです(婚姻色といわれるものです)。上の写真を見る限り、成鳥の一般色だといえます。一度この鮮やかな紅色をした婚姻色のゴイサギを見てみたいものだと思っております。餌は、水生昆虫、魚類、カエル、ザリガニなどの動物性のものだけのようです。川や池、水田などの淡水系の水辺に多いのですが、海辺の河口付近の汽水域でも良く見掛けることができます。
成鳥の特徴はシンプルです。頭上と背中は、緑味を帯びた黒、体の下、顔、頸は白、嘴は黒、脚は黄色です。 また特徴ある後頭部から出ている羽(冠羽)は、2本あります。この冠羽の色で、大きさと形状がよく似通ったササゴイとの区別することが容易です。ゴイサギの冠羽は白、ササゴイのそれは青味がかった黒です。また、ゴイサギの虹彩は赤ですが、ササゴイのそれは黄色です。
成鳥になる以前のゴイサギはホシゴイと俗称されます。ほぼ3年で成鳥となります。生後1~2年の期間がこのホシゴイの時期です。生後1年未満を幼鳥、1年から2年目をホシゴイと呼んでいるように思われます(もっともホシゴイ自体が俗称ですので、厳格に規定することにさほどの意味はないでしょうが)。褐色の背中に白い斑点がたくさんあることから、こう呼ばれているものと思われます。成鳥と、2年を経たと思われるホシゴイのツーショットです。この写真のように、ゴイサギは樹上に集団で営巣します。
次は、1年未満の幼鳥、1年を経た若鳥です。
胸の黒褐色の縦斑がなくなり、真っ白となり、白い2本の冠羽が生えたら大人となったといえるようです。ゴイサギの名前の由来は、多くの資料に出ていますように、平家物語に出ている逸話に由るようです。醍醐天皇が庭にいるサギを捕るよう家来に命じたところ、そのサギが逃げもせずおとなしく捕まったことに感心した天皇が、「五位」を授けたというものです。ただ「大鏡」では、醍醐天皇が京都、神泉苑に行った際、鷺の捕獲を命じたが、逃げ回り、廷臣が、逃げる鷺に「勅なれば畏まれ」と呼びかけ、それに従ったため「五位」を授けたとあり、ちょっとストーリ展開が異なっています。真偽はともかく、ゴイサギがあまり敏捷な鳥でないことは事実です。
ゴイサギは夏の季語です。
五位鷺や曲げたる首をすと伸ばす 湯浅洋子 |
最後の句ですが、ササゴイをゴイサギと間違えて歌ったか、ホシゴイの最終齢期であったのか、ちょっと気になるところです。小魚やカエルのいそうな水辺を注意深くご覧になれば、ゴイサギがじっと餌を探している姿を眼にすることができるかもしれません。