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ホーム/コラム/徒然野鳥記/第53回コハクチョウ


第53回 2006/04/01
コハクチョウ


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(51)コハクチョウ「カモ目カモ科」
    英名:Bewick's(Tundra) Swan
    学名:Cygnus bewickii
    漢字表記:小白鳥
    大きさ:120cm   

毎冬飛来してくる、オオワシとならんで、国内では最も大型、それも白い鳥、コハクチョウです。日本に冬鳥として渡ってくるハクチョウは、よく知られているようにオオハクチョウとコハクチョウです。その名前のようにオオハクチョウ(140cm)の方がコハクチョウ(120cm)に比べて大きいのですが、その両方が一緒にいなければ大きさの違いはあまり判らないほどです。最も判りやすい違いは嘴の黒い部分の大きさでしょう。両方のハクチョウとも嘴の先端が黒く、目元の部分は黄色なのですが、コハクチョウの方が黒い部分が圧倒的に多く、嘴基部の黄色い部分が小さくなります。

最近の研究で、オオハクチョウは、シベリアのタイガ地帯(針葉樹林帯)から、コハクチョウはその北部、北極圏のツンドラ地帯(凍結土が夏だけ湿原地となる湿地帯)から日本に冬渡ってくるルートが解明しているようです。平均して、オオハクチョウは約3,000キロを、オホーツク海上からサハリンを経由して、またコハクチョウは約4,000キロをカムチャッカ半島から千島列島を経て、それぞれ約2週間をかけて日本まで中継地点で休みながら飛来してきます。飛翔ルートから見ますと、オオハクチョウは比較的日本海側を、コハクチョウは太平洋側を南下しているようです。

ハクチョウの仲間は、このオオハクチョウ、コハクチョウ以外に、北米を主な生息地帯とする、ナキハクチョウ、アメリカコハクチョウ、またヨーロッパを主な生息地帯とするコブハクチョウと5種類に及びます。コブハクチョウは、今日では飼育された個体を国内の公園などでよく見かけますが、この中に野生種が混在している可能性がまったくないとは言い切れません。下の写真は、コハクチョウの群れにいるアメリカコハクチョウです。左側にいる嘴が真っ黒な個体です。

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「白鳥」と漢字で書いた場合に思い浮かぶのが、チャイコフスキーのバレー曲「白鳥の湖」ですが、この湖がドイツに実在するようですので、まずこのハクチョウは、コブハクチョウを想定しているものと思われます。ちなみにコブハクチョウはオランダの国鳥でもあります。「白鳥」をテーマにした音楽はこの他に、サンサーンスの「動物の謝肉祭」第13曲に「白鳥」が、シューベルトに「白鳥の歌」(「白鳥はその生涯に一度だけ妙なる歌を奏でる」で有名です)があります。欧州では、ハクチョウは、歌曲に歌われるほどに魅力的な美の象徴として見られているようです。

他方古来よりわが国では、ハクチョウは神聖なる存在の象徴として、各地にかなりの数の白鳥明神(神社)が祀られています。以下は、日本武尊(やまとたけるのみこと)が歌ったとされる歌。ここでの鵠(くび)は、ハクチョウの古語です。

 
ひさかたの 天の香具山 利鎌(とかま)に さ渡る鵠(くび) 弱細(ひぼそ)
手弱腕(たわやがひな)を 枕(ま)かむとは 我(あれ)はすれど・・・・・・

 

若くして死去した日本武尊は、その姿を三度白鳥に代え飛び去ったと記紀は伝え(伊勢、大和、河内に三つの白鳥陵を残す)、さらにその第二子、仲哀天皇が父の鎮魂のためにその陵の堀に白鳥を飼育することを詔したことから、白鳥明神(神社)に象徴される、白鳥信仰が広まっていったといわれます。

さて、明治時代に初めて野鳥の学名がつけられた当初は、コハクチョウはハクチョウとされ(鳥類目録)、オオハクチョウと区別されたようですが、次第にオオハクチョウに対するコハクチョウと改まったようです。ハクチョウは、瓢湖、猪苗代湖、伊豆沼などが有名な飛来地としてあげられるように、一般に池や湖などの非流水系水域を越冬場所とするイメージがありますが、ここ埼玉県では川本町を流れる荒川上流の一部に100羽以上のコハクチョウが一冬を越すことがよく知られています。これまでの観察記録では、2000年に最大飛来数、220羽がカウントされています。

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コブハクチョウがオランダの国鳥であるように、日本では、青森県が「ハクチョウ」を、また島根県が「オオハクチョウ」を県の鳥に指定しています。冬鳥のハクチョウは、冬の季語ですが、「白鳥帰る」、「残る白鳥」は春の季語となります。

 
白鳥の羽ばたく一羽その中に   堅香子
白鳥の暮色の中を辷(すべ)り来る  星野椿
白鳥といふ一巨花を水に置く  中村草田男

 

ところで、ハクチョウと関連付けて、歌人、若山牧水が歌ったとされる彼の代表的な次の歌(明治41年、牧水24歳)があげられることがあります。

 
白鳥は 悲しからずや 空の青 海のあをにも 染まずただよふ

 

冒頭の、白鳥をハクチョウと読めば間違いなくハクチョウを歌ったものですが、残念ながらこれは「しらとり」と読まれるべきで、牧水自筆の短歌に出てくる漢字は、鳥、海、青だけです。「しら鳥」と書かれています。次のURLを参照下さい。
http://www3.ocn.ne.jp/~gogouan/Beautiful-People/Bokusui.html

またこの歌が、太平洋に面した房総半島白浜町根本海岸で詠まれたことを考えますと、この「しら鳥」がハクチョウである可能性は低く、カモメ(カモメ、ウミネコ、セグロカモメ、オオセグロカモメ、ユリカモメのいずれかでしょう)を、空も海も真っ青に染まる夏場に歌ったものと解釈するほうが順当に思えます。また、ハクチョウはその大きさから空を漂うことはできませんが、カモメの仲間は上昇気流に乗ってまさに漂う姿がよく観察されます。

時として、関東地方の公園にもまだ灰色味の強く残った、若いコハクチョウが冬場紛れ込んでくることがあります。さいたま市見沼田圃にもここ十年間に三度ほど、それぞれ一羽だけですが若いコハクチョウが来ています。また東京都内の公園でもそうした観察例が時々報道されます。ひょっとしたらの期待を込めて、来年の冬、近くのできれば自然公園の池を注意深く観察してみてください。迷えるコハクチョウに会えるかもしれません。

注:写真は、画像上をクリックすると拡大します。