現在の日本の平野部では、季節を問わずどこででも見かけることのできる、ちょっと大型の野鳥。恐らく名前を知らない方でも、まず間違いなく数度以上見かけているはずの、日常生活に馴染み深い鳥ともいえます。最近の野鳥図鑑などによりますと、以前は韓国などから「冬鳥」として渡ってきていたものが、次第に環境順化し、戻らなくなった個体群が増え、いつの間にか一年中見ることのできる「留鳥」もしくは国内を山間部から平野部へと移動する「漂鳥」へと変わってきたようです。
源義経の平家討伐、「一の谷の合戦」で有名となった、「鵯越」(ひよどりごえ)は、海を渡ってきたヒヨドリが、海岸の砂浜から一気に絶壁をなす急斜面を昇っていくさまを見て付けられた、難所を表す地名(現在の神戸市兵庫区)といわれています。「鵯越の逆落とし」のイメージがお分かりになるかと思います。
雌雄同色。写真でお分かりのように、全身が灰褐色、腹部はその色合いが淡く、胸部は灰色で白斑があり、ほおの後方に柿色を帯びた部分が目立ちます。大きさは、ツグミと同程度。育雛期には、昆虫などの動物性の餌を中心に、その他の時期には畑の野菜や、柿、みかんなどの果実を貪欲に食します。また、椿、桜の花の蜜も大好物のようで、蜜を吸う嘴の大きいゆえか、その力が強すぎるせいか、花ごと落としてしまうこともよく見かけますし、花の種類によっては花弁ごと食べてしまいますので、あまりほほえましい鳥とは思われていないようです。
鳴き声はかなり大きく、「ヒーヨ、ヒーヨ」若しくは「ピーッ、ピーッ」と騒がしく自己主張します。これが群れて騒ぎ出すのですから、静寂のお好きな方には歓迎されないかもしれません。 このヒーヨ、ヒーヨと聞きなせる鳴き声からこの鳥の名前が付けられたという説が有力ですが、ヒエドリ(稗)から転じたという説もあるようです。
鵯は、秋の季語。またこの漢字は、「ひよ」「ひえどり」とも読まれ、古くは、白頭翁(はくとうおう)とも呼ばれたようです。ただし、中国語で白頭翁というとムクドリを指すようです。
鵯のこほし去ぬる実の赤き 蕪村 鵯の花吸ひに来る夜明かな 屠竜之枝 鵯鳥は朝々来鳴く谷遠く鳴きつつ来るこゑの恋しさ 斉藤茂吉 大菩薩嶺ひよどり鳴ける朝は見ゆ 水原秋桜子 |
日本、韓国南部ではごく普通に見られる鳥ですが、欧州、アメリカ両大陸、アフリカ、豪州には生息していないので、かの地のバーダーから見ると「珍しい」鳥なのです。