前回紹介した「コガモ」を一回り小さくした、淡水系に住む水鳥です。私の住まい近くにある浦和競馬場の真ん中にある貯水池でも、毎年春に営巣、夏にかけて育雛している様子がよく観察されます。都市部の公園のちょっと大きめの池には、まず生息しているともいえるほど生息域が広く、日本全国、また人里だけでなく、低い山間部にも住んでおり、四季を問わず見ることのできる留鳥です。但し冬には池や湖のほとんどが凍結する北海道では「夏鳥」でしょうか。
水中にかなり長く潜水することが出来、水中の小魚やエビなどの他、水草も捕食するといわれていますが、これまで水草を食べている現場には行き合わせておりません。すばしこい小魚を追い掛け回す、活発な潜水活動を保証しているのは、4本の足指(第1趾から第4趾)に付いた、植物の葉のような形をした「弁膜」で、船のスクリューとしてもまた、カジの役割を果たしているといわれています。同じように水中を上手に泳ぐ鳥にペンギンの仲間がいますが、ペンギンが翼羽を使い水中を飛ぶのに対して、カイツブリは、足だけで泳ぎます。
遠くから見ると、生息域が同じで、大きさの類似した「バン」と間違えそうですが、カイツブリが比較的すぐに潜水するのに対して、バンは潜水しませんので双眼鏡がないときの区別は容易です。雌雄同色で、夏羽の方が鮮やか。冬には茶褐色である首筋が暑くなるに従い赤みを帯びて、赤褐色となります。
この鳥の古名は「にほ」、または「みほ」。万葉集に、「ニホどりの潜(かづ)く池水心あらば君に吾が恋ふる心示さね(大伴坂上郎女)」と詠われ、琵琶湖もかつては「鳰の海」と呼ばれていたとも言われています。そのせいでしょう、カイツブリは滋賀県の「県の鳥」に指定されています。
ニオの浮き巣で有名な、カイツブリの巣は、水草などの間に様々な水草を材料として比較的大きな巣を水上に浮かぶように作ります。前述の競馬場では、マコモと葦を材料として巣を作っています。育雛は雌雄で共同作業。双方が巣から離れるときには卵を水草で隠す習性が、よくテレビで紹介されます。4羽程度の雛を孵しますが、親鳥の羽の背中から顔を出す雛の姿は愛らしく、ほほえましい一変の風景画となります。
カイツブリの仲間は日本では5種類観察されていますが(カイツブリ、アカエリカイツブリ、ハジロカイツブリ、カンムリカイツブリ、ミミカイツブリ)カイツブリがこの中では最小です。このうち、ハジロカイツブリとミミカイツブリの日本での繁殖は観察されていないようで、またアカエリカイツブリ、カンムリカイツブリも主として北海道での営巣記録のようですから、カイツブリ以外の仲間は、冬鳥と考えてよさそうです。この鳥でびっくりさせられるのは鳴き声。静かな夕暮れの森の中、その池の淵を歩いていたとしましょう。あなたがこの鳥の鳴き声を初めて聞いたとすれば、この声の、どこまでも響き渡るような明瞭な大きさに、びっくりされるかもしれません。「ケレケレ…」とも「キリキリ…」とも聞こえる甲高い声は、あまり詩情を誘うものでないようです。下のURLからカイツブリの声を聞くことができます。
http://midopika.cool.ne.jp/songs/kaitsu.html
「カイツブリ」(鳰)は冬の季語ですが、その巣である、「鳰の浮き巣」、「鳰の巣」は夏の季語です。
かいつぶりふすや氷のはり枕 定時 鳰 アシに集まりぬ 湖暮るる 中村汀女 さみだれの鳰の浮き巣を見にゆかむ 松尾芭蕉 |