梅雨直前から、梅雨時、そして初夏に湿原の葦原でけたたましく、且つ長時間囀り続けるのはオオヨシキリです。そのオオヨシキリの生息地の比較的近くで、どちらかというと控えめに生息する、小さめのヨシキリが、今回ご紹介するコヨシキリです。
オオヨシキリが、繁殖のため鹿児島県以北のほぼ日本全土の湿原にやって来るのに対して、コヨシキリの繁殖地はかなり狭いといえます。東南アジアで越冬するのはオオヨシキリと同じですが、中部地方から北海道にかけてと、やや北寄りに飛来します(九州・阿蘇山でも繁殖が確認されていますが)。どういう訳か、四国での観察例はないとされています。典型的な夏鳥です。また、必ずしも平野部の湿原だけではなく、亜高山地帯の湿原でも繁殖しますが、その場所はかなり限定的で、多くの人の眼に触れる機会が、オオヨシキリに較べると圧倒的に少ないといえます。
眼の上の眉斑は白く明瞭で、その眉斑の上端を縁取るように黒い筋が入りますので余計に目立ちます。下の写真でご確認ください。よく見ると眼の前方から後方にかけて短い過眼線があり、図鑑などでは黒いと表現されますがそれほど目立ちません。食性は動物食で、草原にいる昆虫を捕えます。オオヨシキリと共生する繁殖地では、オオヨシキリが葦などの背の高い植物相を繁殖場所として選択するのに対して、コヨシキリは、葦の半分ほどの背丈の植物相を選んでいます。
縄張りをもって繁殖し、その確保のためもあってでしょう、よく囀ります。囀る場所を、ソングポストといいますが、観察していますと一羽のオスのソングポストは何箇所かあり、そこを巡回しているように思えます。上嘴は黒っぽく、下嘴は黄色。また、大きく口を開けて囀る際によく分かりますが、口腔内は黄色で、赤味の強いオオヨシキリとはこの点でも異なります。大きさも、生息場所もよく似たセッカは、口腔内は黒です。あまり関心をもって見られることがありませんが、野鳥の口腔内の色も種類によってバラエティに富んでいるのです。
平野部でのコヨシキリの繁殖地では、セッカの生息地と重なる場所もあります。初めてコヨシキリを見たのは、さいたま市西区の大久保農耕地でした。それまでは、コヨシキリは高原の鳥というイメージを持っていましたので、スマートなセッカだなと感じたものです。セッカには白い眉線の上に黒い線が出ることはなく、また、セッカの背中には、はっきりとした黒い縦線が入っています。
胸から腹部、下尾筒にかけては白っぽく、図鑑によってはバフ色と表現されますが、この部分に斑はありません。脚は肉色と表現されることが多いのですが、セッカの鮮やかな濃いピンク系の色合いに比べるとかなり黒ずんで見えます。
ヨシキリというと、オオヨシキリを指すようですが、コヨシキリを歌った短歌、俳句は少ないようです。コヨシキリは、オオヨシキリとともに夏の季語となっています。
あけがたや舌打ち鳴きの小葭切 山田 みずゑ
蛙鳴きまぎれてきこゆ小葭切 水原 秋桜子
オオヨシキリに比べると、比較的澄んだ囀りで、声量もそれほど大きくないコヨシキリです。時として金属性の声も入りますので、慣れればすぐに聞き分けることができます。今がコヨシキリの囀りのピークです。葦原の比較的背の低いか所でコヨシキリの声に耳を傾けてみませんか。
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