異形のキツツキの仲間、アリスイです。国内で観ることのできるキツツキの仲間は、ほとんどが木の幹に取り付いて採餌しますが、このアリスイは、木だけではなく、地上にもおりて地表や地中の餌を採ります。他のキツツキは、一見地上に降りているように見える様子も観察されますが、実際には低い枝や地上に落ちた枯れ枝の中の昆虫を探しているのです。それに対して、このアリスイは地面を歩き採餌することもあるのです。
その名の通り、アリを好物としているようで、長い舌でアリ舐め採るように捕らえることから、吸いの文字が当てられたのでしょう。下の写真(手賀沼周辺)は、ピンクの舌を地中に差し込んでいるところです。またアリの成虫だけでなく、アリの卵や蛹も捕食することが観察されています。英名のWryneckとは、曲がった、若しくはねじれた(Wry)首(Neck)の意味ですが、それはこのアリスイが頻繁に首を曲げ(回転させ)、辺りをうかがう習性があることから付けられたのだと思われます。
舌を地中に入れるアリスイ |
木で採餌する際には、他のキツツキと同様に樹幹と平行に、地面に対しては垂直に取りついていますが、辺りをうかがったり、採餌行動に移る前の静止状態では、キツツキ以外のほかの多くの野鳥と同じく、枝を下腹部の足指でフルに抱え、枝と垂直に止まります。タイトル写真(渡良瀬遊水地)を参照下さい。このような止まり方をするキツツキは他にありません。
アリスイの特異性はまだあります。他のキツツキは、巣穴を自分でほり、営巣、育雛しますが、アリスイは自分で巣を作ることをしません。他のキツツキが使った巣や、木の穴(樹洞)を利用したり、またヒトの作った巣箱さえ使うことが観察されています。
関東地方以南では、冬鳥で、東北地方北部から北海道で繁殖した後、秋になると越冬に渡って来ます。背中は、灰色で褐色と黒の複雑な虫食い状斑が入りますが、頭頂から背中の中央にかけて、黒い線が入り、遠くから背中を見るとこの黒いラインがとても目立ちます。この黒く見える線は良く見ると暗褐色で、よく目立つ過眼線も同じ色をしています。下の写真(葛西臨海公園)をご参照下さい。また、他のキツツキの尾の先端部が分かれているのに対して、アリスイの尾の先端はほぼ直線的に整っています。上の写真の尾の部分をご覧下さい。恐らく他のキツツキは、尾の先端も、木に取りついて採餌する際、足指と同様に体を支える機能を持っているのに対して、アリスイは尾の先端部を体を支える機能として使用していないためと思われます。
日本野鳥の会の創設者、中西氏は、あまりこのアリスイがお好きでなかったようです。
蟻吸といふ不気味な鳥も地に居りて 蛇に似る鎌首をさし伸べいたり 中西悟堂
山と渓谷社の「日本の野鳥」にもこう書かれています。
「巣箱もよく利用する。巣穴の近くに人が近づくと、巣穴から顔を出してシューシューと威嚇する。その姿は穴から顔を出したヘビのようである。」
アリスイは秋の季語。残念ながらアリスイを歌った句にはお目にかかれませんでした。あまり個体数が多くないからでしょうか、バーダーにとってアリスイは人気が高く、出現の可能性のある場所でじっと撮影チャンスを待つカメラマンを良く見かけます。枯れ枝に溶け込むような色合いの、不思議のキツツキ、アリスイを冬の木立の中で探してみませんか。