さいたま市見沼田圃に春を告げるのは、まず3月初旬から中旬にかけてウグイスの囀りの開始、3月20日前後のツバメの飛来です。そして4月中旬、このオオヨシキリが遠く南のマレー半島、インドシナ半島からやって来ます。ヨシの草原にまだ緑の新芽の出始める前から、枯れたヨシの枝にとまり、囀るに従いだんだんと上に登りながら独特の大きな声で縄張りを宣言し始めます。
ヨシに限らず、時として、普通の木にも止まり囀りつづけることさえあります。この大きさと独特の囀り、かなり見晴らしの良いところまで上ってきて囀ることから、見分けのつきやすい鳥といえます。大きさにはかなりの個体差があるようで、コヨシキリ(大きさ14cm)まで小さくないまでも、15cm程度のものまで見かけたことがあります。
「ギョキョギョ ギョシギョシ」とあくことなく、時としては夜間になっても鳴きやみません。雌雄同色、背から尾にかけては地味な灰褐色、喉から体下面は、全体として白っぽいが、よく見ると胸の部分に淡い褐色を帯びています。あまり目立たないが、白っぽい眉斑があります。
見沼田圃のオオヨシキリは、カッコウの托卵のパートナーにされているようです。オオヨシキリもそれを知ってか、幾度もカッコウを執拗に追い掛け回している場面を目にしたことがあります。また、カッコウに対する自衛かどうかわかりませんが、同一テリトリー内に三、四箇所に同時に営巣、育雛する、一夫多妻です。
カッコウだけでなく、他の雄からも自分のテリトリー内の雌を守らなければならず、上を向いて囀るだけでなく、時には横を、斜めを見ながら、ガードマンも兼任ですからオオヨシキリの雄も大変なようです。
葭切のをちの鋭声や朝ぐもり 水原秋櫻子
|
これと対照的な小林一茶の句(葭切も行々子も同じく夏の季語)二つ。
牛の子の寝入りばな也行々子 行々子口から先に生まれたか |
「自然派」の巨匠、高浜虚子に反旗を翻した「芸術家」水原秋櫻子。あるがままの自然の姿を日常の語彙に唄いこんだ小林一茶。どちらもオオヨシキリの一面を鋭く捉えているように思えます。下は、オオヨシキリの雛たちです。
(注)オオヨシキリをスズメ目ヒタキ科と分類する資料も見受けられますが、ここでは、日本の最新の図鑑『日本の野鳥590(2000年11月初版、平凡社)』に拠りました。