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第15回 2003/09/03
なぜタイタニックは沈められたのか
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書名:なぜタイタニックは沈められたのか
著者:ロビン・ガーディナー
出版社:集英社
出版年月日:初版2003年1月29日
ISBN:4−08−773381−5
価格:2,500円
http://books.shueisha.co.jp/CGI/
search/syousai_put.cgi?isbn_cd=4-08-773381-5&mode=1

1912年英国製豪華客船「タイタニック号」は、4月10日、英国サウサンプトンを処女航海出港、フランス、シェルブールに寄港した後、欧州での最後の港アイルランド、クイーンズタウンを経て、アメリカ、ニューヨークへと大西洋横断航海に乗り出す。その後、本船は4月14日の夜半、大西洋上に浮かぶ巨大氷山に衝突、船はそのまま沈没、救助された人員は705名、その他の乗客、乗員1500名程が全て不帰の人となる大惨事を、20世紀初頭の世界に発信することとなる。日本では、明治45年(この年7月に大正元年)明治天皇の体調不良がささやかれ始めた時期のこの事件は、不吉な予兆と受け止められたのかもしれない。

つい最近では、ジェームス・キャメロンの採るメガホンのもとに作成された映画『タイタニック』は、アカデミー賞11部門を獲得、流されたテーマ音楽は一躍世界のポップチャートを駆け巡り、それまで比較的無名に近かった男優レオナルド・ディカプリオは映画俳優の桧舞台の常連メンバーにカウントされるに至ったことは、皆さんの記憶にも新しいところでありましょう。一般に広く信じられているこの大事故の経緯に、結ばれぬ悲恋の糸を絡ませながら、沈没船を探索させつつ当時の豪華さを客観的に浮かび上がらせようと、金に糸目をつけぬ積極的な映写活動は、興行的には大成功したようです。

こうしたロマンティックな幻想に、頭から水をかけるのがこの作品。原題は、『TITANIC: The Ship That Never Sank?』。「決して沈没することのなかった船、タイタニック」とでも訳せましょうか。つまり1912年4月14日に大西洋に沈んだ本船は、タイタニックではなかったのだという。なんとも大胆な歴史上一般常識とされてきた事実に対する反論です。邦訳の題名、「なぜタイタニックは沈められたのか」と合わせ考えますと、この著作の論旨が明白となります。

タイタニックフリークを自称して憚らない著者、ロビン・ガーディナーは、鋭く筆を進めます。タイタニックに「偽装」された船は、サウサンプトンを出港した時には、石炭庫において既に火災を発生させており、陸地を離れてからの高速でのがむしゃらな船の加速は、決められた死に場所に、半ば半身不随となった巨像が進むごとくであったことを一つ一つ描いていきます。

「タイタニック」の進路に大きな氷山塊があることが、大西洋にある複数の船舶から、それも何時間も以前から「重要情報」としてもたらされていた。しかし船はその情報を無視、危険地域に直進していく。更に、氷山との接触によると思われる衝撃を受けたとする船内の情報が、何十分間にも渡って他のクルーに伝えられることはなく無視され続ける。

筆者は、1995年に発表し、注目を浴びた前作『タイタニックは沈められた』から更に論理の展開を緻密に、かつ前に進める。前作では、意図的に危険な氷山地帯に持ち込まれたことを疑惑の一証左と結論付けている。しかし、本執筆では、氷山に衝突したことが沈没の原因でないことまで展開していく。最終的にこの「船」は、氷山との衝突ではなく、他船との計画的な接触事故により、既に爆発寸前まで進行していた石炭庫における危機的な火災状態に大爆発を引火させた、人為的、世紀の詐欺事件と断ずるのである。

乗客に少なくとも2名の日本人がいたこと、救命ボートの全てが、実際には規定乗客員数を20〜30%上回っても問題なかったにもかかわらず、実際には可能乗員の70%未満の人々を搭乗させたくらいで、それもきわめて非計画的に降ろされ放置されたこと。それゆえ全てのボートが使用されたわけではなかったこと。映画以上に悲惨な現場検証が、いたるところで論理的にされていく。信じられていた通俗的な歴史上の事実に、およそ100年を経て真実の光を当てようと必死に尽力、奔走したであろう筆者の熱い思いが伝わってくる、反骨の書がこれである。国家と当時の巨大金融資本に操られた、まさに大量計画殺人事件とでも呼べる人災的な大事故。キャメロンの描いた「タイタニック」は、「豪華客船の沈没事故、もたらされた幻想」とでもタイトルを変えるべきなのかもしれません。