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第45回 2004/7/01

なんとも判然としない梅雨が経過しています。梅雨の晴れ間の時期が異常に長く空梅雨の様相です。この6月には珍しく2度も台風が本土に上陸し、この原稿の執筆時点、6月30日には台風8号の影響で関東地方にはどんよりとした空模様から時折雨が降ってきています。恐らく降雨量は平年並みと記録されるのでしょうが、通常の梅雨前線によるものでなく台風の影響の方が大きいものと思われ、感覚的には季節が1ヶ月早まって進行しているかのようです。この2月から4月までの気温の高さを思い起こしますと、地球温暖化がすでに相当進行しているひとつの証左であるかの感を覚えます。

この長い梅雨の晴れ間の一日、埼玉県越生町を訪れる機会がありました。梅林で全国的に有名なこの町のもうひとつの売り物はウグイスです。(この町のシンボル鳥ともなっています)3月以降、この町のいたるところでウグイスの囀りを聞くことができます。これほどウグイスの密度の高い生息場所は全国でも少ないのではないでしょうか。「梅にウグイス」とは越生町を指しているかのようです。この町を広く取り囲む森に入ってみますと、ちょっとがっかりさせられる光景に多く出くわします。スギとヒノキがびっしりと植林され、適切に間引きされることなく放置されたかに見まがう面積があまりにも多すぎることです。生い茂る針葉樹林の中は薄暗く、鳥類、爬虫類、昆虫などの生き物が生息する環境にはありません。

かつての材木の輸入自由化に伴う建築資材の価格低下により、今では建築材の20%しか国内供給できていない状況を反映しているのでしょうか。林業白書の概要を見ると、こうした状況が恐らく全国的に広がっているのではないかと思わせる数字に出くわします。スギ立木1m3で雇用できる人数は、昭和36年(1961年)11.8人に対して、平成9年(1997年)には0.8人と激減します。人工林の面積は、昭和41年(1966年)31.5%であったのに比べ、平成7年41.4%と増加していますが、人工造林の絶対面積は昭和40年(1965年)372.23haから平成7年(1995年)には50.407haへと86.45%も減少しています。

これは、人が植林した林の、全森林に占める割合は増加しているにもかかわらず(自然林は当然減少します)、林業として人が手を加え、何らかの処置を施している林はほんのわずかとなり、残りは放置されたままという結論に行き当たらざるを得ません。一般に、野菜、果物等の農業生産物や、魚、貝等の漁業生産物は、市場で価格が供給、需要のバランスで高下を繰り返し、新聞紙上でも人々の関心を集めることが多いのですが、価格が安定している丸太、若しくは加工木材に関心が集まることはあまりないようです。恐らく価格の安い輸入木材がこれを支えしているからでしょう。その裏側で日本の林業は荒廃に向かって突き進んでいるかのようです。

かつて埼玉県は、近代林学を確立し、始めて「林学博士」号を取得した本多静六(1866年埼玉県菖蒲町生まれ、1952年没)を生み出しました。日本初めての近代的な公園、日比谷公園の創設者でもある氏は、その公園内の樹齢400年と推定される大イチョウの保護を訴えた「首賭けイチョウ」の逸話でも有名です(本年に入ってからも有線テレビで放映されていました)。氏の功績として挙げられるのは、日本全国の様々な風光明媚な場所の国立公園化の促進と、林の多岐に渡る活用の推進であったろうと思われます。

氏の第一の卓越性は、産業の急速な発展と拡大に取り組む当時の明治政府の方針の延長上には、自然をあるがままに残存させることの限界を既に理解し、最低限の犠牲を自然に強い、自然と人との接点を公共性の観点から見直そうとしたことにあるでしょう。また第二の評価すべき点は、はるか近世から確立されていた、建築資材確保としての林業に、防雪(防雪林、鉄道林)、蓄水(水源林)、防風(防風林、風致林)の機能を合理に付加していったことです。本多博士は、自ら実験的に育成した荒川の源流にある森林4303町歩(約4万2700m2)を、大滝村に寄付(1930年)していますが、最近この大滝村の森もかなりの危機に瀕しているとの報道を眼にしました。「いやしくも木が二本以上並んでいるところは、すなわち『林』の字で、林学者の頭と腕をかすべき領分であるという信念」をもって明治、大正、昭和の時々の政府と悪戦苦闘を演じた泰斗は、いまや心安らかざる思いでいるに違いありません。

温暖化を森林の荒廃と直結させることは牽強付会にすぎるかもしれません。しかし、森林の荒廃は、様々な分野で人の生活を取り巻く環境に悪影響を与えることだけは間違いないことのように思われる今日この頃です。