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第147回 2013/4/8

「卯月、ソメイヨシノは満開」

 卯月に入りました。白い卯の花の咲く月と解説されます。卯の花とは、ウツギのことで、ウツギの開花は通常5月以降です。旧暦4月は、新暦で3月ですからとてもウツギは咲きません。語源的に最も有力視されている説ですが、必ずしも納得できません。むしろ「卯」が「茂」(ぼう)または「冒」(ぼう)の意味で、草木が大地を覆うようになった状態という、漢字の意味から、春の入り口にふさわしい名称として採られたのではないでしょうか。

 今年の3月は前半に実に暖かい日々が続いたため、桜の開花が全国的に早まり、開花後の冷え込みで開花後約2週間の長期間にわたって咲き続いていました。ここでいう、桜はソメイヨシノ。木にソメイヨシノの薄いピンクの花が咲き並ぶ下には、菜の花(セイヨウカラシナやセイヨウアブラナ)の黄色の絨毯が敷き詰められるという河川敷の心和む景観も本年の異常気象のおかげでした。

 今では、桜といえばソメイヨシノですが、これは明治にさかのぼり、日露戦争の戦勝記念に植樹されたものがそもそもの拡大の始まりといわれています。徐々に植樹されていたものが、第2次世界戦争後、日本全国で学校、街路、堤防、公園などに植樹されました。ソメイヨシノは容易に根づき、かつ長年待つことなく若木でもすぐに開花するため爆発的に植樹活動は促進され、今日に至っています。国内で桜といわれる樹木の80%までがソメイヨシノだと云われるほどになりました(実際にはもっと多いのかもしれません)。団塊の世代と後にいわれるようになった、第二次戦争後間もなく生まれた新生児の成長と、ソメイヨシノの広がりは軌を一にしているといえます。

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 ソメイヨシノの起源は、江戸時代末期、染井村でエドヒガン系の桜と、オオシマザクラ系の桜の交配によって人為的に作られたといわれています。その起源をめぐっては、自然交雑説(伊豆半島にてオオシマザクラとエドヒガン)もありましたが、自然交配の起きる可能性にかなり問題があり事実上否定されています。また、独立種説もありましたが、最終的に昨年(2012年)千葉大学の研究チームが、ソメイヨシノの交配種メス側をエドヒガンと発表し、決着がついたようです。ソメイヨシノはエドヒガンとオオシマザクラの交配によって江戸時代に作られ1900年に命名された園芸種。種子で世代を繋ぐことができず、一代限り。日本全国への広がりは、当初の原木の、接木などによるクローンの拡大です。

 ソメイヨシノがこれほどまでに桜の主流となってしまいますと、それが園芸種であるだけに、なんとなくわだかまりを感じてしまいます。今更ながらこの時期には、水上勉氏の「櫻守」を思い出します。主人公の庭師、北弥吉の生涯の師であった、桜研究者、竹部庸太郎は、「近頃流行っている染井吉野は、違う」と語ります。「古代より日本の伝統の櫻は朱さした淡緑の葉とともに咲く山桜だ」と。竹部の実在したモデルである、櫻研究者、笹部新太郎氏は、「櫻を滅ぼす櫻の國」のなかで、ソメイヨシノを「櫻とは言えぬ櫻の屑」とまでに断言しています。笹部氏は自身でも数多くのサクラの園芸品種を作ったわけですから、ソメイヨシノが園芸種であることを非難したわけではなく、開花するという結果が早くでて、育てやすい品種の育成に世の中が全く傾いてしまい、本来のサクラの良さと危機にひんしたその保護を省みることのなくなった軽佻浮薄な世相を「屑」だと嘆いたのでしょう。ちなみに、日本の国の花は菊と桜、その桜は山桜です。

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   江戸時代の国学者として著名な本居宣長は、桜の歌を数多く残したことでも有名です。自身の自画像に「讃」として添えられた歌です。

 敷島の大和心を人問はば、朝日に匂ふ山桜花

 市井の国学者、本居宣長は、この時代、幕府公認の知識層がすべて何らかの意味で中国文化の影響下(漢学)にあったことにに対して、大和心とは唐心(からごころ)に対する、中国の伝統的な文化に対する我が国の独自性を、清廉で表裏がなく、清楚、かつ散り際の潔さをもった山桜に託したといえます。後に新渡戸稲造の「武士道」は、この歌を引用し、武士の戦における心得にまで普遍化させようとしました。

 ソメイヨシノが江戸時代に作られた園芸種であり、日本古来の自然種としての桜が数多くあり、その代表がヤマザクラであることを理解したうえで、今後の桜の楽しみ方を考えていくのもいかがかと思うのです。団塊の世代そのものの筆者としては、幼少のころからソメイヨシノを春の象徴として記憶に刷り込まれてきていますので、なかなか「櫻の屑」だとは切り捨てられないのが本音なのです。

 

 




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