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第005回 2005/12/24
オーデイオ・マニアの定番
「カンターテ・ドミノ」でクリスマスを!!

DISC5

(スウェーデン)プロプリウス LP APRO 7762(CD PRCD 7762, SACD PRSACD 7762)
『カンターテ・ドミノ』

エンリコ・ボッシ「カンターテ・ドミノ」/アドルフ・アダム「ユルソング」/フランツ・グリューバー「清しこの夜」/アービング・バーリン「ホワイト・クリスマス」
など 計15曲

トルシュテン・ニルソン(指揮), オスカル・モテット・コーラス マリアンネ・メルナス(s), アルフ・リンデル(org)
(録音:1976年1月23〜25日/4月29日 ストックホルム オスカル教会)


 かつて志賀直哉や武者小路実篤が愛した北の鎌倉と呼ばれる一角、手賀沼に面した我孫子市文化会館の一室を借りて、毎月2回第2と第4土曜日に、近隣から音楽とオーディオの同好の士が集まって、興味あるテーマを発表したり、自作のオーディオ機器をデモし合う楽しい集いが催される。今年の4月、満10周年を迎え、会員数も今や50名を超えるようになった我孫子オーディオ・ファン・クラブによる例会であるが、筆者もメンバーの一員として極力出させて貰っている。
 今回の発表者のひとりは、既存の中堅アンプとCDプレーヤーに大改良を加えて、というより全く新しいリニューアル・バージョンを仕立て上げ、この自慢の装置を備付けのタンノイにつないで、オーディオ用チェック・レコードの定番、「カンターテ・ドミノ」を素晴しい音で鳴らしてくれた。
 このソースは天井が高く残響音の多い教会内での録音ではあるが、重低音を含むパイプ・オルガンの響きをバックに、ソプラノ・ソロを中央に配置した合唱隊のつくり出す迫力とハーモニーがバランスよく定位しながら、しかも互いに溶け合って見事な効果をあげていた。時あたかもクリスマス前、ほとんどのメンバーには、曲目の細部まで、先刻周知のソースだけに、発表者にとっても、十分に所期の目的は達せられたことであろう。

 日本で発売されたこのCDには、「世界のクリスマス音楽」という副題が付いているが、韓国や、チェコ、フランス、英国などヨーロッパ各地の民謡が含まれる。もともと、1976年に、スエーデンのプロプリウスというマイナー・レーベルからLPで出たものだが、その後、CDやSACDでもレリースされ、世界で15万枚以上が売れたとか。この数字は、オーディオ・チェックのためのレファレンス・デイスクとしては、画期的なものらしい。
 さて、このアルバムのタイトルにもなっている最初の曲の曲名「カンターテ・ドミノ」は、旧約聖書の詩編第149篇などの出だしの言葉「カンターテ・ドミノ・カンテイクム・ノヴム」(新しい歌を主に向かって歌え)から取られている。「レクイエム・エテルナム」で始まる鎮魂ミサ曲が「レクイエム」と呼称されるのと同様である。
 ちなみに この詩編(PSALM)は、旧約聖書のほぼ中間、「ヨブ記」のあと、150編から成る神への賛美と祈りのことばで綴られた詩集だが、中世以来、ローマ・カトリック教会では、詩編唱定式による教会旋法により朗唱されてきた。他方、第109編以下の「ヴェスペレ(晩祷)」や最後の第150編の「ハレルヤ」など、詩編をテキストにして幾多の名曲が作られる。この「カンターテ・ドミノ」も同様で、作曲家ではハスラー、ブクステフーデ、シュッツ、モンテヴェルデイ、最近では、リトアニアの作曲家ミシュキニスが有名だが、ここでは、オルガンの名手だったといわれるイタリアの作曲家エンリコ・ボッシ(1861〜1925)によるものが歌われる。

 ところで、この歌い出し“新しい歌を主に向かって歌え”とは 一体どういう意味なのだろうか。もちろん毎日のように生まれては消えていく今の消費社会を象徴するかような粗製濫造による新曲という意味ではない。
 鎌倉雪ノ下教会の東野尚志師によれば、“新しい(ノヴム)”とは、中世キリスト教神学では、“終末”と同義語で、主がすべてを公平に裁くために地上に再臨し、神の国を完成する“終末”の世界こそ真に新しい世界であり、この詩の真意も、主の再臨と神の国の確立を熱望しながら、希望と喜びをもって神を賛美し歌いなさいということらしい。
 こうした唯一神に対する絶対的帰依とその神によってもたらされる終末への揺ぎない確信こそ、キリスト教に限らず、砂漠で生まれたユダヤ教やイスラム教と我々東洋宗教とを峻別する特徴であり、彼ら教徒にとっては強靭な精神的拠りどころとなっている核心なのである。

 クリスマスの一般的定番、「清しこの夜」「ホワイト・クリスマス」も低俗に陥らず、極く自然に唄われる。これらは、随分いろいろなバージョンがあるので、比較してみるのも一興かと思う。

 この合唱団もそうだが、現在世界最高といわれるスウエーデン放送合唱団を初めとする北欧系のコーラス・グループの場合、いつも感じることだが、技術的なレベルの高さは当然として、どの合唱団にもそれぞれ独特の個性と強さがあって、そこから音楽の感動を導きだしている点が素晴しい。
 教会の響きを生かしたベルテイル・アルビングによる録音も自然。ジャケット画は、プロプリウス・レーベルでは、お馴染みのロベルト・ターナーによるもので、恐らくこの録音が行われたストックホルムのオスカル教会の外観であろうか。